どういうことでしょうかこれはほんとに。東峰君が来てくれた翌日、驚く程元気になっていた。熱も下がったし、食欲もあるし、気分爽快って感じだ。

「知里やっと治ったな〜!よかったな!」
「菅原君も澤村君も電話とかメールありがとね。電源落としっ放しにしててほんとごめんなさい‥」
「じゃあ今度肉まんだな」
「だべ」
「じゃあ私も!」
「琴ちゃんもプリントありがと」
「いーってことよ!」

東峰君に抱き締められて、あんまり長居したら怒られるからと帰った後、外で呆然としていた私に突然声を掛けてきた琴ちゃん。たまりにたまったプリントを家まで届けにきてくれたらしく、‥ついでに一部始終を見られていたらしい。恥ずかしかったけど「よかったじゃん」って喜んでくれた。‥多分。なんだか複雑そうな顔付きだったけど、あんまり踏み込んで聞いたらいけない気がして聞けなかっただけ。

一応昨日から、東峰君とお付き合いをしている、ということになっている。あんまり実感はない。だけど、今までの連絡のなさが嘘みたいで、朝からラインが届いていた。“おはよう”っていうのと、“体調どう?”っていう内容のもの。それを見て、改めて昨日のことが嘘じゃなかったんだなって、もう熱くなくなった身体がぼわんと熱を持った。‥東峰君って本当に大きいんだなあ‥やめよ、また思い出しちゃうからやめよ。

「そうだ、菅原君」
「ん?」
「あの時話聞いてくれてありがとう」
「なにが?‥あー、あれか。いや、別に大したことしてないだろー?で、なんか進展あった?」
「うん。あった、だからあの‥」
「そっかー!よかったな!」

ぐしゃっと髪の毛を掻き混ぜられて、朝から綺麗に髪をといてきたのにとちょっとだけ怒ると、悪戯っ子みたいな笑顔を返された。なんだか、菅原君少し変わった‥?すっきりした顔してる。

「旭と仲良くな」
「うえっ」

あれ?なんで知ってるの!?あれかな、東峰君から聞いたのかな。昨日の今日なのに、なんか恥ずかしい‥。

「あ、っじゃなくて菅原君に私、」
「あー、あれは駄目だったら‥だったよな?」
「いや、そうなんだけど‥」
「だからあのお誘いは全部無しな!」

おいなんの話だって、澤村君が菅原君の腕を小突いている。2人の秘密だよなって笑うから、私も出来る限りの精一杯で笑った。私に迷惑をかけないようになのか、それよりさあって話題を変えて、また笑っている。ほっとすると同時に、菅原君にも素敵な人が現れるといいなって頬杖をついた。‥‥私を好きになってくれてありがとうって、いつか言えたらいいな。

「そうだ、これ今度の夏合宿のプリント」
「あ、ありがと」
「風邪長引いて来れなくなったらどうしようかと思ったぞ」
「ちゃんと働くから心配しないで!」

次の合宿は、長期の合宿になる。当然練習の内容だってこの間よりも濃いだろうし、色んなアシストとかフォローはこの間より必要だろうから。今度こそ足引っ張んないように頑張るから!大きな声を出したら澤村君に驚かれて、別に前も足引っ張ってないだろ、最終日に風邪は引いたけどって笑われた。

「そういえば私まだ合宿中の話し聞いてないや。また後で聞かせてよ」
「色々あったよー。話し纏まるかなぁ」
「面白い話しだけでいいよ」
「難しいねそれ」
「難しいんだ」

琴ちゃんと話していた途中で、予鈴の音が鳴った。そろそろ最初の授業が始まりそうだ。‥実は今日のお昼、東峰君から一緒に屋上でご飯食べようよって誘われている。もう既にお昼が待ち遠しい。席に着いて教科書を引っ張り出していると、近くに座っている菅原君と目が合った。にひって笑って、口パクで「おめでとうな」って一言、ガッツポーズをされた。少しだけ申し訳ない気持ちもあったけど、そう思うのはもう失礼だって分かってる。「ありがとう」って私も口パクで返したら、親指を立てて前を向いた彼に少しだけ顔が熱くなった。












「一気に熱下がったみたいでよかったなあ」
「私も吃驚したよ‥全然熱下がらなかったのに、東峰君が来てからどんどん下がって‥」
「あれ‥俺‥?」
「あの‥‥多分来てくれて相当嬉しかったの、‥かも」
「えっあっ‥そ、そっか‥」

言ってみて恥ずかしくなって、炊き込みのおにぎりを大きいまま口の中に放り込んだ。お昼休みに彼と会ってみて前までと違うのはやはり、もう両想いなんだということで、距離もなんだか近いところ。なんか、東峰君がそわそわしてるから、私もそわそわしちゃう。

「なんか緊張する‥」
「い、っままでと同じだよ、‥ちょっと、関係性が変わっただけ だよ‥」
「いやまあそうなんだけど‥‥もう、こういう風になんのしがらみもなくっていうか‥居たい時に隣に居れるんだなって思ったらさ‥」

この人なんでそういう事急に言うの‥全く同じ気持ちなのは間違いないんだけど。‥だけどさ。めちゃくちゃ恥ずかしい、絶対顔赤いもん私‥。

「‥あのさ」
「ひゃぎぃっ」
「前言ってた約束ってまだ修正可能‥?」
「‥‥どういうこと?」
「2人で遊びに行こうって誘って、‥その後俺やめようって言っちゃったから。‥それを無しにしたい。春高が終わった後になるかもしれないから待たせちゃうけど‥」
「‥うん」
「絶対。指切りする」
「大丈夫だよ。知ってるもん。東峰君がバレーに打ち込んでること、私ちゃんと知ってるから」

だから、落ち着いたらでいいよ。そう言ったら、突然難しい顔になった彼は、両手で顔を隠していた。どうやら照れているらしい。‥今そうなっちゃう要素あったかなあ‥。こっそりと下から覗いてみたら、見るなあって余裕のない声がした。ふふ、耳まで真っ赤だ。

2018.06.15

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