他の人がどのくらいとかそういうのはあんまり分からないけど、触ってみたら吃驚するくらい柔らかい。服越しじゃなかったらどんだけ気持ち良いんだろう(俺が)、みたいなことを考えながら、ぬるりと舌を這わせていた彼女の耳元にふうとに息を吹きかけた。我慢の限界がきてる、とかじゃなくって、今の心境としては悪い虫をつけたくないという心が、牽制という意味で触れてしまっている。‥所謂ささいな嫉妬だ。これは。

「‥俺の部屋、行かない?」

そっと囁いたつもりでも、昂りに負けて少し上擦った声がなんとなく恥ずかしい。ぷるぷると震える身体をゆっくり横にずらしてみると、真っ赤な顔と涙の膜を張った瞳が見えた。

「いや?」
「まだ、お皿洗い終わってない、」
「後にしよう、俺がやるから。那津」

そう言って泡のついた手を取ると、適当に泡を床に払った。那津って呼ぶと、心の中が満たされていくみたいに優越感が積もっていく。だから、那津も俺のことを名前で呼んでほしい。我慢ならなくてこちらを見た顔にキスをすると、唇を叩いてこじ開けて、深く舌を潜り込ませた。逃げる彼女の舌を捕まえて、ぬちぬちと絡ませるのがめちゃくちゃ気持ち良い。

恋をすると女の子は可愛くなる、らしい。その言葉通りにどんどん可愛くなっていく姿を見て、少しだけ不安になった。でもそう言うと、格好が悪い気がする。

「はぁ 、ふ ぁ」

とろんと溶けてくる目元に俺と同じように気持ち良くなっているのが分かって、ついごくりと喉を鳴らした。このままここでしたい、とは言え、いやいや流石に台所はまずいだろと思い直した。そういう上級者コースはもうちょっとお互いが慣れてから、いや俺は別にいいんだけどさ。逆に興奮するし。‥なんて頭は考えていても、既にごそごそと服の中に入れてしまっている手がなんとも欲望に忠実だ。

「あか、る い‥! や、」
「‥もうちょっとだけ」

ほんとに?と言いたげな瞳の下の、涙袋のあたりがピンク色になっていて凄くかわいい。ちょっぴり涙で濡れているそこを舐めとって、鼻とか、頬っぺたとか、色んなところにキスをしてまた唇に戻る。中途半端に開かれた口の中にまた舌を入れながら、お腹の辺りを彷徨っていた手が固いワイヤーに触れて、恐らくブラの布地に当たった。

「柔らか、‥‥っだ!!!!」

その瞬間。右の足首に激痛がした。驚いて足元に視線を下げると、暇を持て余したのか、それともこの行為を今すぐ中止しろとでも言いたいのか、マシロが小さな爪を立てていたのだ。

「マシロ、お前‥」
「ほっほら赤葦君、マシロもさっさと片付けろって言ってるんだよ‥!」
「‥良いとこだったのに‥」

ふにゃー!って鳴いている。俺の腕から抜け出て、そんな小さな身体を抱き上げた小鳥さん‥いや那津が、ばたばたとリビングに戻っていく。ふわふわの感触を忘れたくなくて、置き去りにされた右手が宙に浮いた。もうちょっと触りたかった。あわよくばそのまま。

「あの、‥また今度にしよう?だめ、かな‥‥京治君‥」

マシロをぎゅっと抱いたまま振り向いた彼女が、桃色に染めた頬っぺたをぐにぐにと動かしてそう言った。そんなこと言われたら、今日は絶対手なんか出せないに決まってるだろ。しかも今京治って言った。腕の中のマシロはじっとこちらの様子を伺って、手を伸ばせばひゅんと飛びかかってきそうだけど、ああやばい、めっちゃくちゃ触りたい。

「今度なんてすぐ来ると思うけど」
「うっ」
「‥いいよ。今日は味見できたから」
「そ、そんなこと言わないで恥ずかしいから‥!」
「次はちゃんと食べさせてね」

やっぱり欲には敵わなくて、手を伸ばして彼女の頬に手を伸ばす。ふしゃーって声が聞こえたけど、今にも飛び出しそうだったマシロを制したのは那津の腕と掌だった。

「足、大丈夫‥?」
「引っ掻かれただけだから。そういえばマシロに引っ掻かれたの初めてだ」
「‥あの、」
「なに?」
「も、もっと美味しくなってから食べて‥ください‥!!」
「は」

大声を出されて、耳がきんとした。いやいや、なにその発言超恥ずかしいよ。てんぱってんの?先にお風呂頂きますと脱兎の如くその場から消えた彼女と、ぽつんとソファに置いてきぼりにされたマシロ。もっと美味しくなってからーー‥って、バカなの?あの子。‥今でも充分美味しそうなのに、それ以上になるとか。

「にゃん」
「‥お前は空気を読んで引っ掻いたの?もうちょっと待てば美味しくなるからって?」

何処と無くドヤ顔をされている気がして、邪魔されたことに関してもちょっとむかついて、猫用の毛布でマシロをぐるぐる巻きにしてやった。‥そんなのいつまで待てばいいんだよ。こういうことするのは、その場の空気とタイミングだと思ってんだよ、俺は。

2018.05.12

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