「ちょっと待ってよ!!今日から合宿なんて私そんなの聞いてない!!」
「いや聞いてないって言われてもな‥」
「ちょ、ちょっと琴ちゃん‥」

5月2日、1限の始まる5分前に琴ちゃんの怒声が教室に響き渡った。いや琴ちゃん、聞いてないって言われてもですね、貴方男子バレー部のマネージャーでもなんでもないんですから。‥あ、これツッコミ入れられるような状況じゃない。菅原君の机に片手をついてる琴ちゃんの気迫が凄い。

話しは今朝の登校まで遡る。


***


「GWに東峰君誘って遊びに行けば?」
「ハッ!?ちょ、血迷ったの!?」
「はあ?血迷ったって意味分かんない。別に男女で遊びに行くくらい普通よ、普通」
「それ、だって、デート‥!」
「いやだから、2人でデートしてこいって言ってるんだっての!」

途中で琴ちゃんに遭遇して、ご一緒登校している最中に彼女が突然提案してきたのは、東峰君とのデートだった。待ってほしい。私は東峰君が好きだと言った覚えはないし、自覚した覚えもない。しかもそんな大型連休に遊びに行くとか、それはあれだ、カップルじゃないとできない芸当じゃなかろうか。しかも2人で行けと言う。いやいや、それはちょっといきなりというか、レベルが高いのでは。

「東峰君のこと嫌いじゃないんでしょ?寧ろ好きに傾きかけてると私は見てる」
「私の何が見えてるの‥怖いよ‥」
「いーい?自分から動かない限り運命だって動かないんだよ。動かないで運命が変わることなんてないの、そんなの漫画の世界だけなの!」
「ま、漫画のキャラクターに失礼だよ〜‥」
「別にいいじゃん。遊びに行って違ってたら違ってたでいいんだからさ。逆にこれで意気投合するかもよ?好きになるかもよ?」

恋多き、というより、好きなのかはイマイチ分からなかったが、彼氏は割と常にいる琴ちゃん(ただし今はいない)。彼女にそうやって諭されてしまうと、そうなのかなあ‥なんて思ってしまう私はやはり恋愛には疎いのだと改めて感じる。お節介焼きだけど、琴ちゃんの性格を知れば、良かれと思ってやっていることなのだ。それを蔑ろにするのも気が引けるけど、‥けど。

「私と一緒にどっか行っても、‥‥楽しくないかも、好きそうな話題ないし‥」
「話題は調べて行くの!‥って、いや、私はアンタと出掛けるの結構楽しいけど」
「えっ、そうなの?」
「例えば好きな食べ物とか、服とか、路上でなんかやってたりすると、目がキラッキラしててさ〜、結構見てて飽きないよ来海」

なんか私の彼氏みたいだな。

「‥そ、そうなんだ‥」
「‥って!!私が彼氏みたいじゃん!!だから大丈夫だって、自信持って誘いなって!!」
「いや、あの‥‥でも、やっぱり‥」
「‥‥‥じゃあ私が誘う」
「ええ!!?」


***


という訳で話しは戻る。

「もー!!計画台無しじゃん!!」
「‥で、知里。日島は何を怒ってるんだ‥?」

聞かないで。理由なんて話せない。話したら私の高校生活が灰となってしまう。髪の毛をわしわしとくしゃくしゃにしながら眉間に皺を寄せる琴ちゃんの姿を見て、菅原君と澤村君は大変混乱していた。当たり前である。

「あ、あの‥合宿ってここで‥?」
「ああ、うちの学校は合宿用施設あるから。最終日は他校と練習試合もあるし」
「そうなんだ‥」

練習試合。もしかして、東峰君も出るのかな。イヤッ、そんなことは聞けない。ふうん、なんてぼんやり呟いていると、澤村君と何故か長ーく視線が絡まる。どうしたというのか、私の顔に何かついているのだろうか。首を傾げていると、ひょっこりと横から菅原君の顔が現れて飛び上がった。

「うっひゃあ!」
「何、知里合宿行きたいの?」
「え?いや、そういう訳では‥」
「そういえば、清水がご飯作る人がどうとかって嘆いてたなあ‥」
「「あ」」

澤村君の一声に、菅原君が声を上げた。そして同時にもう1人の声が重なる。クエスチョンマークが頭上に浮かんだ瞬間、澤村君の両手を琴ちゃんが掴んでいた。

「ねえ大地君!来海の作るご飯意外と美味しいって知ってた!?」
「ちょっと待って意外って何」
「あー、そういえば去年の調理実習の麻婆豆腐美味しかったなあ」
「ね!スガ君も来海が合宿でご飯作ってくれたら嬉しいでしょ?キヨちゃんも大助かりだし、あんた合宿のご飯作り参加してきたら?!」
「へっ‥‥‥ん、っな!!!?」

2016.12.22

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