「あの10番の“速攻”なんなんだよ!?」

あの2人の速い攻撃は、誰から見てもやっぱり凄いものらしいことを改めて実感した。どきどきする心臓を飲み込んで、じいとコートの中を見つめる。烏野側の打ったボールとか返したボール、敵コートに中々落ちることがない。相手は以前にも何度か戦っている音駒高校で、そうして1人、高身長外国人が増えていた。‥ちょっと待って、あんな人いたっけ?

「あれ?あんた烏野のマネージャーじゃないの?」

ずここ、と隣でパックのジュースを啜る音がした。ぶわりと少しだけ匂い強めの香水の香りがしたと思ったら、いつの間にか横にいたのは田中さんのお姉さん。ま、まだいらっしゃったんですか‥?日向君や影山君をここまで送ってきて、既にもう帰ったとばかり思っていた。私と同じように、ずっと試合を見ていたんだろうか。ってそうじゃなくて!

「ち、違います!私はお手伝いで‥!」
「お手伝いぃ!?」
「ひい!!」

ぐわ!と瞳が開いて、ぐいと私の肩を引っ張った。お手伝いってボランティアってこと?なに?最近の女子高生ってそうなの?いや、そうなのってどういうこと?引っ張った肩をぐわしと組んで、またパックのジュースを啜った。左腕に大きな胸がぎゅうぎゅうと押し付けられていて、なんだか凹んでしまう。なんだか色んな意味ですごい‥この人はいったい幾つなんだろう‥。

「バレー好きなんだなー」
「す!好きになったんです、‥元々は興味はなかったんですけど、たまたま‥」
「ふーん?名前は?」
「あ‥知里来海です‥」
「来海な。田中冴子!冴子さんでいいぞー」

コートのすぐ横でノートに何かを書いている潔子ちゃん、必死にタオルやスクイズボトルを配って走り回る仁花ちゃん。他校のマネージャーさん。何度もいいなあと思った気持ちを抑え込んで、必死にボールを追いかける皆に目を向けた。‥嘘。どうしてもコートに目を向けると、東峰君に視線がいってしまう。

ぼん、とん、ばすん。

「あ、」
「はあ〜?!なにあれ、はや!速いけど止められた!?」
「ああー‥」
「うげ!ヒゲの兄ちゃんのボールも拾いやがったー!絶対痛いぞあれ!」

吃驚した。絶対決まると思っていたのに、まさか日向君と影山君の速攻が止められるなんて。‥東峰君のスパイクも綺麗に拾われるなんて。ちょっぴり皆が焦っているのが、体育館の2階からでもよく分かる。いいのか、これで、このままで、‥みたいな。掴んでいた手摺をぎゅうと掴んでいると、東峰君が大きく飛び上がった。また、打つ!そう思っていた瞬間、その隣からもう1人、負けないくらい高く飛び上がった、ボールしか見えていなかったのであろう日向君の姿も見えて。

え、ちょっと待って。

スローモーションみたいに、ゆっくりと2人の距離が近付いていく。ボール1つに対して、2人の影。それはつまり、

「危ない!!!!!」

殆ど無意識に出た大声に、ベンチにいた何人かが私の方を向いた。直後に大きな体と小さな体がぶつかって、小さな体が床に転がる。ドン、という鈍い音に焦る周り。‥東峰君の大きな体に吹っ飛ばされたのはもちろん日向君の方だった。

「ススススススミマセン!!」
「ちゃんと周り見ろボゲェー!!何の為の声掛けだタコォオ!!!」
「ボゲェ!日向ボゲェ!!」

周りにガンガン注意を受ける日向君を見てほっとして息を吐く。どうやら本当に怪我もないらしくて、そうしてちらりと東峰君に視線を変えた。顔を青ざめる姿に、ほんの少しだけ違和感がした。どこも痛くない。‥痛くなさそうなのに、青ざめている顔の口の端が僅かに歪んでいるような。‥そんな気が。

「どっちも怪我ないか!!」
「俺は大丈夫です、日向、お前本当に大丈夫か‥!?」
「俺も怪我!!してません!!」
「こっわー‥あんなこともあんだね、接触事故」

接触事故、‥で、済めばいいんだけど。なんとなく雰囲気がぴりりと痛いのを感じているのは、私だけなんだろうか。

2018.04.07

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