「ほほんとにごめんね!!」
「あ‥俺は全然気にしてないから‥いやほんと、」

それもそれで個人的にはちょっと凹むんだけども、そんなことを気にしてる場合じゃない。東京に無事到着して、東峰君は今からきっときっっつい練習が始まるのだ‥というのに、まさか私がぐっすりバスで寝てしまって、挙句肩まで貸してもらうなんて。しかも膝にかけてもらってたの東峰君のジャージだったし‥もう最悪‥いや最悪じゃないんだけど、どっちかというとすごくラッキーだったんだけども。

「自分の粗相を悔やみます‥うう‥」
「来海、東峰は大丈夫だから他校のマネージャーさんの所に挨拶行こう、仁花ちゃんもこっち」
「「ハッハイッ!!」」
「じゃあ、頑張ってね」

ゆるりと手を振られて、私は1つ頭を下げると慌てて潔子ちゃんの姿を追う。いや分かってる、私は烏野排球部のお手伝いをする為にここまできたんだ。邪な理由は自分の心の中に隠しておかないといけない。皆が強くなる為の手助けを自分から申し出たんだから、それに見合うことをしっかりとしなくては。周りはもちろん知らない人ばかりだし、こんなに大所帯の合宿だって慣れているわけがない。ほら、しっかりしろ、とばかりにぱちんと両頬を掌で叩いて、根本の目的を見つめ直した。

「仁花ちゃんも来海も、他校生たくさんいて大変なことがあるかもしれない、でもここに来てるってことは、皆目的が同じなんだってことだと思ってる。出来ることは私達でフォローしていきたいから、頑張ろうね」

コートで戦う皆と同じ目の強さ。声のトーン。全員で勝ちたいんだ、と強く思う気持ち。そういうものを全部引っくるめたような潔子ちゃんの意思に、さっきまでふわふわと浮かれていた私の心が引き締まる。隣の仁花ちゃんも、「ひゃい!」と変な声を出した。まだまだ初々しさの残る彼女の瞳にも、不安気ながら真っ直ぐな何かを感じた。凄いなあ。潔子ちゃんは勝利の女神みたいだ、と思ったのは、多分私だけではない、‥筈。


***


‥って、思っていたら。

「‥皆、大丈夫かな‥」
「うん‥」

1試合負ける毎にペナルティとしてフライングレシーブをコート一周。‥しかも、1回や2回ではなく、全試合分。つまりは今のところ全試合見事に惨敗ということで。体もしんどいだろうけど、きっと心もしんどいんじゃないかなあと。‥私はしんどいというより、皆あれだけのポテンシャルを持っているのにそれでも負けちゃうのが悔しい。‥いや、ポテンシャルだけで勝てるものではないのだろうけど。多分周りの高校のレベルが高いからだとは思う。音駒高校は以前に練習試合をした所だから、烏野よりも何かが勝っているんだろうなあというのはなんとなく分かっていた。だけど、森然高校、生川高校、梟谷学園と、他の3校もどこもかなりレベルが高いらしい。梟谷学園に至っては、エースの人が日本でバレーボールをしている高校生の中でも5本の指に入るという凄いスパイカーなのだというからさらに驚きだ。

「日向君と影山君が、‥いないだけなのに」

決して弱いわけじゃない。だけど、明らかに何かに欠けたような烏野に対してつい口が滑ってしまった。いけない、そんなことを言ったら絶対にいけないことなのに。呟いた言葉に潔子ちゃんの背中がぴく、と反応する。どうしよう、怒らせた!と思っていたら、ふ、と薄っすら笑った声が聞こえた。‥‥え、なんで?

「でも、日向と影山だけじゃ勝てない。それは2人だって分かってる。‥だから、引っ張られて引っ張り上げられて、きっと皆も強くなる。その過程をきっと私達は見ることができるよ」

純粋に潔子ちゃんが格好良いなあって、思わず瞼を何度もぱちぱちとさせた。隣の仁花ちゃんも、ふおおお‥!って目をキラキラさせている。マネージャーだけど、部員の一員。同じコートに同じように立っているように見えて、ほんの少し羨ましかった。そんな姿に見惚れていると、ガラリと体育館の扉が開く音。そうして見えたのは、‥随分とセクシーなお姉さんだった。

「“主役”は遅れて登場ってか?ハラ立つわ〜」

誰かの一声で一体どういうことなのかと思った時、セクシーなお姉さんの後ろに見えた2人の姿。日向君と影山君、まさか走ってきたわけじゃないよね‥?この子達ならやりかねないんじゃないかと考えていたら、どうやらセクシーなお姉さんにここまで送ってきてもらったらしい。しかも、田中君のお姉さんだって言うじゃないか。‥成る程、なんだかそう言われると似てる気がした。

2018.03.26

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