「そんな少女漫画に有りがちなイベント起こってたなんて私知らないんだけど!」
「言っ‥言ってないもん‥」

琴ちゃんに連行された先、坂ノ下商店の店内で取り敢えず怒られた。吐け、とりあえず吐け、全部吐け。いやいやそんな大したことじゃないんだけど、という話しの流れから東峰君とのことをぽつぽつと話して、今に至るというか。とりあえず後ろの金髪のお兄さんずっとこっちを見ているから落ち着いてほしい。

「ってか来海、東峰君みたいな感じがタイプだったんだね。なんか意外‥」
「いやだから、好きとかじゃなくてさ‥」
「だって今日目で追ってたの、無意識だったんでしょ?無意識の恋〜いやー青春だねえ‥」
「琴ちゃんと同じ歳なんだけど‥」

好きとかいう自覚はない。けど、東峰君がとても優しくて良い人で、笑う顔に気分が高揚するような自覚はある。でもそれはあれなんじゃないか。男性アイドルの笑顔にトキメキを感じてしまう、キラキラのアレ。

「分かんないのにトキメキとかキラキラとか言ってんじゃないわよ」
「ヒィッ」

口に出してないのに!

「まあ別に、初恋もまだのアンタにそれが恋なのよ!とは言わないけどさあ。スガ君に抱きつかれてもドキドキすらしない来海が、東峰君の笑う顔だけで気分が高揚するとか‥ちょっとは特別感持ってもいいんじゃないの?」

特別感。ふむ成る程。そう言われるとなんかしっくりくる気がする。今まで感じたことのなかった特別感。‥うん、なんか分かる。

「ねえ、琴ちゃんは好きな人とかいないの?」
「私の心配より自分の心配しなさいよ」
「なんかすいません」












「合宿まであと数日だな」
「‥そうだな大地」
「暗いぞスガ」
「暗い割りに今日のスガさんのセットアップキレッキレっすね!!!」
「西谷がキレッキレだからなー」
「アザーーーーーッス!!!!」

褒めたことに間違いは全くないけど、声が大きい。休憩中にも関わらず、田中や日向とわちゃわちゃし始めた西谷の底抜けな明るさに俺の影が深くなった気がした。なのに今日絶好調すぎるキレとか、俺、ドMなのかな‥

「知里がああなのは今に始まったことじゃないだろ。あんまり気に病むなって」
「ほらやっぱ大地見てた!!」
「不可抗力だろ。落ち着きなさいよ」

知里が好きだ。それは友達としてではなく、女の子としてなんだけど、当の本人はそのことに全く気付いていない。好きだと自覚して1年と半年が立つけど、俺のアクションに彼女が揺さぶられたことは1度としてない。知里のことが好きだと知ってるのは大地だけだ。教えるつもりはなかったけど、勘付かれただけであり、旭を仲間外れにしているわけではない。

「ナチュラルに可愛いなんて言ってたらそりゃ慣れられても仕方ないぞ」
「自覚してる‥」
「しかも旭にまで"知里可愛いだろー"なんて言ってたら仲間増やしにかかってるな」
「自覚してる‥‥‥」

大人しくて、少し弱気だけど、割とはっきりは伝えてくれる知里のことが好きだと思ったのは、高校2年の夏休みから始まった球技大会の特訓。ド級に下手だったバレーの指導を知里自らに頼まれたのがきっかけだ。元々入学式から仲の良い間柄だったけど、在り来たりに一生懸命で、健気な所に惹かれて、気付いたらゾッコンだった。あと小ちゃくて可愛い。

「まあなんだ、後でなんでも聞いてやるからとりあえず今は切り替えろ。影山に負けず劣らずのキレッキレ、もう1本頼むぞ」
「‥!」

ニッと笑ったうちの主将は本当に、人を奮い立たせるのが上手いと思う。

「旭ーー!!!トスあげんべーーー!!!」
「スガがなんか怖いなんでーー!!!?」


2016.12.13

prev | list | next