「日向君と影山君は後で合流かあ」
「参加できるだけでもよかったよ」

合宿、出発の日。夜から出発するから到着は明日の早朝みたいだけど、いつもなら眠い時間なはずなのに頭が冴え切っている。日向君と影山君は、結局テストで赤点を取ってしまった教科が1個ずつあって、翌日補修を受けてから来るらしい。あれだけ必死に勉強を頑張っていたのに、なんかかわいそうだな。潔子ちゃんと談笑しながら集合時間が来るのを待っていると、ぴょこぴょこ走ってくる小さな女の子が見えた。こんな時間に学校に何用だろう‥?そう考えていたら、隣の潔子ちゃんが来た、と一言、小さめに手を振った。

「仁花ちゃん」
「清水先輩!」

はて、知り合いかな?にょきっと首を伸ばして、じいっと女の子の雰囲気を確かめる。金髪頭のミディアムヘアー。お星様のヘアゴム。小動物みたいな動きでぱたぱた、ぴょこぴょこ。ぱちりと目が合うと、うふお!?と変な声が聞こえた。外見とは裏腹なすんごい声出るんだね。私もひゅんと背筋が震えた。

「しっ清水先輩が仰っておりました先輩でありますですか!」
「あ‥‥もしかして、‥ヤチサン‥?」
「そう。この間言ってた1年生の新マネージャー」
「は、初めまして。3年の知里来海です」
「谷地仁花と申します!よろしくおお願いいたしゃす!!」

お願いいたしゃす‥?ちょっとよく分かんなくて首を傾げて、なんとなく意味が分かった所で同じように頭を下げた。個性的な烏野バレー部に、これまた個性的な可愛い女の子が入ってきて皆はさぞお喜びのことだろう。特に西谷君や田中君は2割り増しで賑やかなんだろうなあ。‥いいなって思っちゃった。

「お、もう来てるかー。早いな」
「ちーッす」
「っていうような時間でもないけどなあ」
「こんばんちーッす」
「スガ無理矢理すぎ」

1人、2人。潔子さん!今日も美しいです!知里さん!荷物持ちましょうか!谷っちゃん!元気ですか!目をキラキラさせた2年生の賑やか組。そうして続々と集まってくる最中で、3年生の主将と副主将とエースの影を見つけて、ぴしっと背中を真っ直ぐにする。東峰君がふわあと欠伸をしているのが可愛い。決してフィルターがかかっているわけじゃない、可愛い。

「もうほとんど集まってるみたいだな」
「遅刻怪しい組は補修だもんなー」
「あの2人がバレーに関してそれはないと思うよ」

まあ、どうせ結局補修でいないんだけどな。3人でハモって、ぶはって笑っている。酷いなと思う反面、何気ない会話が何処か楽しそうだ。

「知里さん、またよろしくね」
「ううん!こちらこそよろしくお願いしまっす!」
「ご飯楽しみだべー」
「まあ飯の前に練習な」
「分かってんよ。そういや他の高校ってどんなんだっけ」
「主催の梟谷学園、参加予定の森然高校も生川高校も東京で強豪を張れるチームだって聞いてるけど。勿論音駒も」

東京で強豪を張れるって相当凄いのでは。日本の中心だよ、指導者もプロ選手もわんさかいそうじゃないか。うわあ、そんな人達と東峰君達は練習するのか‥。きっと物凄い轟音のスパイクとか、鋭いサーブとか、上手な人がたくさんいるんだろうなあと思ったらちょっと怖かったけど、それ以上にどきどきもする。皆が強くなる為の合宿。‥そんな場所にいることができるのが嬉しくて背中がぞくぞくした。私にできることは本当に限られてるから、役に立てるように精一杯やろう。

「‥その前に澤村、バスの席割りなんだけど」
「ん?」
「澤村と菅原はそのままでいいんだけど、私は仁花ちゃんと一緒の方がいいと思うから来海の隣は東峰にしてほしい」
「あー‥そうだな。旭、知里に迷惑かけるなよ」
「え‥っあ、かけないって」

あれ、なんか今私なんか言われた?バスの席割り、私の隣が東峰君。‥そう聞こえたような。聞き間違いかと思ってぱっと潔子ちゃんを見ると、天使のような笑顔でこちらの様子を伺っている。‥え、嘘、本気‥?今更冗談だよ、と言われた所で反応の仕方にはちょっと困るんだけど‥。

「ごめんね来海。仁花ちゃんに教えないといけないことあるから」
「う、ううん、だいじょぶ、」

あんまり大丈夫ではない。だけど、そればっかりは確かにしょうがないよね‥そう思うことにするしかなくて、ちらっと東峰君の顔を見てみる。ごめん、俺寝ちゃうかもしれないけど、邪魔だったら起こしてね。‥だって。寝顔とか、すっごいレアじゃない?かーっと自分の中の温度感覚が狂って上がり始める。

「じゃあさあ、」

その時は俺と変われ。見てわかるくらいふくれっ面をした菅原君が東峰君の肩をぼこんと叩く。‥やだ。その時は私も寝たふりして、絶対席の交代なんかさせないもん。って、私いつからこんなに図々しくなったんだろ。

2018.03.01

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