よかったら明日のお昼屋上で一緒に食べない?

そんな突然の連絡に心踊ったのが昨日。久しぶりの東峰君からのライン。驚いたけど、もしかしたら私が遠征に行くって聞いたからかなあってなんとなく思った。え、でもそれで呼び出されてるんだったらもしかしたら悪いような予感しかしないんだけど‥。お昼休み、待ち合わせした屋上でお弁当片手にそわそわしていると、カタンカタンと誰かが登ってくる音が聞こえてきた。あ、来た。‥東峰君だ。

「あれ‥?俺時間間違ってた!?」
「ちが、違う違う!私が早かっただけだよ‥!」
「そっか、‥よかった」

お弁当持ってきた?その言葉に私は首を大きく縦に振ってばっと東峰君の目の前にお弁当箱を差し出した。いつもより少しだけ大きめ。‥実は、屋上で一緒にお昼を食べないかと言われた時から考えていた、1人分よりも多い量のお弁当だ。もしかしたら東峰君も食べるかなとか、もしかしたら食べたいとか美味しいとか、‥私の作ったお弁当を東峰君に少しだけ食べてもらいたいなとか至極単純な理由だけで作ってきたそれ。こてんと首を傾げた東峰君にはっきり言おうか言うまいか考えていると、彼はふにゃんと笑った。

「知里さん、今日はいっぱい食べるんだね」
「あ、いや‥そうじゃないというか‥‥」
「違うの?」
「東峰君も、その‥食べれたらと思って‥」

え。え?ええ??ゆっくり後退りするように一歩離れた東峰君は、複雑そうに声を出した後に頭を掻いてまた笑う。いらないならいいの!慌ててそう言葉にすると、いや、そうじゃなくてさ、としどろもどろになりながらぼそぼそと声が続く。取り敢えず遠いからと、そっと彼に近付いて隣に立ってみた。ああ、いつ見ても目線が高い。何食べたらそうなるのかな、別にそんなに高くなくてもいいんだけど私もあと3cmくらいあれば‥。

「俺も食べていいの‥?」
「え、あ、うん、よければ!」
「じゃあ食べたいな」
「ほんと‥!よかったあ、作ってきた甲斐があったよー」
「もしかして一緒に食べようって言ったから‥」
「私が勝手にやったことだからいいの!」

ぺたりとその場に座り込んで、東峰君も座って食べようよと声をかける。どきどきしながら座るのを待っていると、そっと隣に座り込んだ彼と距離も声も全部近くて緊張するしかない。うわ、うわあ。こんなに近いの初めて、かも。かぱっと開いたお弁当の中身を見て東峰君がうお、すげーと僅かに声を大きくして驚いているのが恥ずかしいやら嬉しいやらで、頬が緩んでくるのが分かるし熱かった。

「卵焼きのこの黒いのなに?」
「海苔を一緒に巻いたの。美味しいんだよ」
「器用だなあ‥合宿の時も思ってたけど、知里さん料理上手だよね」
「ほ、ほんと‥?」
「うん。あ‥っと、そうだ、これ」

ぴらりと差し出された1枚の紙切れを受け取って、成る程と納得した。夏の合宿の日程表。じゃあやっぱり、東峰君も私が行くって聞いたんだ。‥行くって聞いてどう思ったかな。厚かましいとか思ってないかな‥。甘辛く炒めた野菜炒めをもぐもぐと噛み締めながら次の反応を待つ。うえ、しまった、少し辛かった‥。

「合宿、他の高校の人達もたくさんいるから。‥もし何かあったらすぐ相談して」
「ありがと。優しいなあ、東峰君」
「ないと思うけど‥何かあったら心配するからさ」
「うん。でも大丈夫、迷惑かけないようにする!」

皆は練習に集中しないといけないもん。ぐっとお箸を握りしめてがぶりと唐揚げに噛み付いた。私が皆にできることは、練習に集中できるような環境作りをすること。邪な思いがあるにしろ、バレーに青春を捧げている皆を応援しているのは変わらないのだから。今度こそ勝ってほしいから。‥もうあんなに悔しそうに涙するのは見たくないから。

「あ、その唐揚げ貰っていい?」
「はーい、どうぞ」
「‥‥‥えっと‥」

なに?どうしたの?そう言おうとして気付く。自分のお箸でさも当然のように彼の口元に差し出した唐揚げに。‥うわ!私何やってんの!?驚いて手を引っ込めようとしたけど、あたふたする待っての声と手首を掴まれた大きな手に動けなくなる。

「‥これ、食べるね」

ぱくりと大きな一口。私の使っていたお箸をそのまま一緒に含んでぺろりと唐揚げを頬張る彼は、何が嬉しいのかにこにこと笑っている。やっぱり美味いねと言いながら手首を離されて、今度は自分で買ってきていた食堂のパンに手をつける彼。‥どうしよう、これ、私使ってたのに。東峰君の後に口をつけるなんて!困っていると、どうしたの?なんてなんにも分かってなさそうな顔をした東峰君。‥分かってるんだからね、ほんのり耳が赤くなってるの。恥ずかしいなら間接キスなんてしないでよ、もう。

2018.02.25

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