つ‥疲れた‥。昼間に突然現れた日向君と影山君、驚く程勉強ができなかった‥。バレーボールの為にここに来たというのは以前に聞いていたけど、いや、バレーボールの為に勉強できたんだったら今ここでこそ発揮するべきじゃなかろうかと割と本気で思ってしまった。‥ちょっと待って。もしかしたら私の教え方が悪かったのかもしれなかったり‥?そうなると彼らは悪くないのでは‥。

「いやほんと‥ウチの馬鹿共が悪かった‥」
「あ、ううん、そ、そんなこと‥私ももっと分かり易く教えてあげられればよかったね‥」
「あれで首傾げる方がどうかしてるだろ‥」

教えている途中で教室に入ってきた澤村君は最初こそ2人がいることに驚いていたものの、あまりに必死な2人を見て「ここは3年の教室だ」と言うのを諦めたらしい。隣の菅原君も最初こそ笑っていたが、最後の方は珍回答に苦笑いするばかりだった。‥そりゃあそうだよなあ。そもそも2人はバレーの遠征に行く為に頑張っている訳だし、水を差すなんてこと出来っこない。

「まああれだ、周りにはこうやって教えてくれるやつがいるんだ。あいつらも恵まれてるよ‥」
「恵まれてるというか、菅原君も澤村君も必死なんでしょ‥?日向君も影山君もこの間の試合で主力選手だったし、」
「まあな‥」
「え、あ‥ごっごめん‥なさ、!」
「?なんで謝るんだ?」

お、思い出したくないことだったかなと‥。ごにょごにょと口籠っていると、ああ、なんてあっけらかんとからっと笑った澤村君。気にしてない筈はない、よね?いや、もう過去のことだから気にしてないのか‥?

「知里は顔にすぐ出て面白いな」
「そんなに!?」
「いや、俺はいいと思うよ。それに多分、あいつらも知里のそういう所がさ‥」
「?」
「‥悪い。独り言」

それに多分?えっと‥悪口‥?よくは分からなかったけれど、気にしなくて良さそうだったのでなんとなくスルーした。‥負けは負けだし悔しいのなんて忘れられない。忘れられないけど、切り替えないと。吹っ切れたように堂々と口にした澤村君のその顔は、前よりももっとずうっと頼もしい。‥まあ、元々皆を纏めるのが上手な人ではあったけれど。

「あ」
「へ?」
「そうだそうだ、すっかり忘れてた、」
「なあに?」
「知里、前合宿手伝ってくれたろ?あれ、コーチも先生も凄く助かったみたいで」
「ほんと!よかったー、私も人並みには役に立‥」
「それでなんだけど‥日向と影山が必死に行きたがってる遠征、またついてきてくれたりするか?」
「‥え‥‥え!」
「遠征、東京なんだけどさ」
「トーキョー!!?」

東京という都会まで遠征に行くだなんて凄い!‥いやそれよりも、そんな凄い所まで私がついていっていいのだろうか。それに、ヤチサンという新しいマネージャーの子も入っているみたいだし、‥私は充分にお荷物な気がしないでもないんだけど‥。でも行ってみたい気持ちはもちろんある。前に行った合宿、楽しかったし、面白かったもんなあ。‥邪な理由があるとすれば、最近あまり会えていない東峰君とも過ごせる‥という特典というか、なんというか‥。

「もちろん赤点は行けないんだけどな」
「あ、赤点なんか取ったことないよ!」
「じゃあ、どうする?」

どうする。‥どうする?ニヤニヤと歯を見せて笑った澤村君は、絶対に私が出す答えを知っている。知っているからそんな顔をするんだ。用意されたレールの上を歩かされているような気がしたけど、そんなの言い訳で、きっと自分の意思。

「‥行く!」

お母さん達への説明も、勉強さえちゃんとして良い点取れればなんとかなる!思い切って首を振ると、今度は何が見えるんだろうかとどきどきした。皆が今真っ直ぐ見ているものを、私ももっと見てみたい。‥東峰君の大きな背中をもっと追いかけてみたい。たったそれだけかもしれない。‥でも、全部全部、私の中では大きな理由だ。

2018.02.05

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