サイズぴったり。でも、なんか予定より少しスカートが短いような、そんな気がする。制服のスカートの半分よりもうちょっと短いけど、‥スパッツ履くからいいか。

「ワンショルダーやっぱ可愛いな〜!」
「このラインってもう少しだけ太くできないですかね?」
「やっぱそう思う?」

サンプルの商品は部長である私のサイズで作ってある。細かく修正する所をメモする顧問の先生と話し合って、それをわくわくしながら見ているユミがぴらりとスカートをめくった。ほんとやめて。今リアルにパンツだけしか履いてないんだけど。

「あ、ごめんスパッツ履いてるかと」
「この変態」

座って待っててよって椅子に押し込んで、衣装を確認したところで今度は演技で使うポンポンの色を話し合って、何度か衣装と一緒に確かめた。応援しに行った時、梟谷が目立つような色が良くてポンポンもゴールドにしたけど、意外と真っ青とかでもいいかもしれない。そんなことを話し合っていると、扉の向こう側から京治の声を含む数人の足音が聞こえた。男バレかなあと思いながらくるりと鏡の前でもう一度回ると、あとは大丈夫だろうと先生がペンを置いて満足そうに笑った。

「よし、じゃあもう着替えていいよ」
「ありがとうございましたー」
「皆にはお腹回り気をつけるように言っておいてね」

お腹が見えてるから、演技する時にあんまり出てるのが見えてるとね、なんて苦笑いした先生が扉を開けた。動いてるからよっぽど大丈夫だと思うけどとは思いながら返事を返していると、その向こう側で男バレ数人が通り過ぎていくのが見えて思わず隠れてしまった。‥そうだよね?京治の声したし、サポーターつけてる人いたし、多分そうだ。

「木兎まだやってんのかね?」
「今日随分調子悪そうだったもんなあ。な、赤葦」
「‥そうですね」

木兎先輩が、調子が悪い?聞こえてきた声に思わず反応して、京治の姿を探してしまった。そうしてぱちんと目が合った瞬間、隣にいた男の人と目が合って、ぎょっとしたように目が大きくなっている。え?なに?そう思って首を傾げるところだったけど、‥私今めっちゃ衣装着てるじゃん!

「‥おお、チア部‥?」
「なに、夜鷹それすごいね」
「エッなに、赤葦知り合い?」
「幼馴染です」
「マジで?てかこの子チアの部長さん?じゃなかった?」
「そうですね」
「カーーーッ!許すまじリア充!」
「木葉さん聞いてました?幼馴染です」
「うるせえ!」

わらわらと扉を境にして集まり出す赤葦とその他数名に引いていると、ユミが目の色を変えて男バレに近付いていた。梟谷の男子バレー部は女子の間でもイケメンが多いという噂はよく耳にしていたけど、ユミもそれに漏れていないらしい。そんな面々を目の前にして、恥ずかしくて近付けないとかいうような女子ではないのは分かっていたが、今がチャンスとばかりに体当たりしに行くような姿を目の当たりにするとなんというか、肉食女子というのはああいうことを言うんだろうなと思う。

「あれで今度は応援行くんで、よろしくお願いします!」
「うわ‥マジか‥直視できねえ‥」
「直視できる余裕ねえだろうけどなー」
「でも見つけたらテンション上がるなあ〜」
「‥夜鷹」

上から下まで、頭のてっぺんから爪先まで。文字通り舐めるように衣装を見た京治が、今までにないくらいの真面目な顔を浮かべていた。なに、なんて言う暇もないまま京治が突然頭を下げてきたものだから、何事かと周りもユミも、私も目が点になってしまう。よく分からないけど、京治は考え無しでいきなりこんなことはしてこない。‥だから、なんとか「急に」とか「恥ずかしい」とか色々出てきそうな言葉を飲み込んで、彼の次の行動を待った。

だけど、その次に出てきた言葉は私がどうやって考えても出てこないものだった。

「その格好で今すぐに木兎さんのこと応援してきて」










謎の言葉と共にバタバタとそこから京治に連れ出された私は、体育館の外の壁にへばりついていた。ユミの目は点でいっぱいだったけれど、周りの男バレの人達は「赤葦それは名案!」とばかりに快く私と京治を見送ってくれたのは記憶にも新しい。だけど、これサンプル衣装だし、まだ人前に出るの慣れてないし、っていうか早く着替えたい。その前に了承した覚えもない。

先ほどの話。木兎先輩が「今日随分と調子が悪い」話。どうやら練習のスパイクが上手いこといかなくて、ゲームでの得点もほとんどなくて、しょぼくれモードとかいうやつになったまま体育館に残っているらしい。いつもだったらしょぼくれになれば「今日はダメだ」とテンションがどん底にまで下がって面倒なだけらしいのだけど、今日はテンションがどん底のまま練習に励んで、そのまま根を詰めているとのこと。‥それと私の応援と何が関係あるのか。そう聞いたら「衣装の女の子が自分だけを応援してくれるというのはテンションだって上がるしかない」そうな。それどんな持論だ。まあ分からなくもないが。

「絶対木兎さん元気にさせてきて」

お願い。そういう風に何度も何度も頼まれて、その元凶が木兎先輩なのだから下手に断ることも出来ない。というか、チア部は味方を元気にするのがお仕事でもあるのだから、正直断るという選択肢はないに等しい。‥と、なんとか無理矢理結論付けた。体育館にいるのが先輩じゃなかったら絶対こんなことやってないんだからね!

2018.08.12

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