「なんかいつもより応援多いねー!」
「ほんとだね」
「えっなにその冷静さコワイ。なんかあった?」
「緊張してる」
「なにに?!」

この衣装をまた見られることにも、‥あとは、木兎先輩を応援する緊張というか、なんか色々。だからそっとしておいてほしいけど、何故か興奮しているユミにそんな言葉は届かないだろう。

昨日、キスされるかと思った。ほんとに吃驚して、帰ってもずっと頬は火照ったままで布団に入って寝るまでずっと熱かった。なんだったら起きてもまだ熱かったから、熱出したかと思って慌てたけどどうやらそういうことでもなかったらしい。それは既に体温計が実証済み。平熱36度で通常の私だった。

会場の2階席の一角は、梟谷学園の応援隊で固まっている。決勝戦に来ているのはチアリーディング部だけではなくて、帰宅部や男子バレーを応援している生徒、そして保護者や先生で埋まっていた。特に賑やかで派手な応援でも有名な梟谷は他校の生徒も楽しみにしているところがあるらしく、ちらほらと見慣れない制服を着た生徒もいる。つまり人気が高いのだ、我が梟谷男子バレー部は。

「定位置着いたら合図あるまで待機!どのタイミングで合図するかは昨日の練習の通りだからちゃんとコート見ててよー!」

コート上に選手が入場する前、同じく応援で来ている吹奏楽部の演奏が始まる。その合図で私達もポンポンを上にあげて、観客に応援を促すのだ。そうしたら、会場の空気は瞬く間に梟谷の応援でいっぱいになって選手の闘志が燃え出すから。大体いつもそんな感じになるのは分かっていた。

‥なのに、今日はどうやら何か状況が違うらしい。賑やかな演奏が流れてきて、それを合図にポンポンを上に向けた瞬間入ってきた梟谷の選手御一行様は、いつもよりも随分と覇気がなかったのだ。

「‥え、なんだろう今日どうしたのかな」

ユミの言葉通り、いつもと何かが違うと悟ったチアリーディング部2年目の私達は腕を大きく動かしながら顔を困惑させていた。そう、明らかに中心であり主将である木兎先輩の様子がおかしいと、皆なんとなく感じているのだ。

「ちょ‥ちょっと夜鷹なにあれ‥」
「いや分かんない‥どうしたんだろうね‥?」

昨日はちゃんと話せたし、会話におかしい所もなかった筈。帰る直前だって普通通りだったし、先輩もちゃんと笑ってくれてた。なのにどんよりしている先輩の隣から、何故か京治の刺々しい視線がしっかりと飛んでくるのだからたまったものじゃない。私が何をしたというのか!‥とは流石にこんな所からは叫べないから勘弁して。

結局何が言いたいかも分からないまま、コートの上では対戦校との試合が始まろうとしている。どうしたらいいのかな、今の私に何か出来る事ってあるのかな?そんなことを考えても仕方がなくて、とにかく必死に鼓舞することしかできなかった。‥折角楽しみにしていた今日がきたのに、緊張で心を震わせていた今日を迎えることができたのに。

「夜鷹、昨日木兎さんにメール返してないの?」

そういえば何か、ちょっと前にも似たようなことがあった気がすると思ったらびたりと手が止まった。いやでもあの時は木兎先輩からきたメールを返してなかっただけ、今回は木兎先輩からメールなんてきていない。‥いやでも待てよと、少しだけ頭を回転させて考えてみる。

‥もしかして木兎先輩、最後の最後に私からの応援メールが欲しかった、んだとしたら。自惚れていたとしても、そうだったんだとしたら。そう考えてちらりと木兎先輩の方へと視線を変えてみれば、ぐずっとしたような先輩の目が私を見ていたのだ。それで合点がいく。ああ、もしかしたらそういうことだったのかな‥。どうしよう、私のせい‥?








チームの様子があまりよくないまま、試合開始の笛が鳴った。もちろんそれに比例してミスも多い、らしさもなくらしくもなく連発するチームの不協和音は、少しずつ、だけど確実に相手チームとの点差を開いていく。

「な‥んか、ホントにやばくない‥?」

胸の高鳴りはいつの間にかなくなって、応援しながらもハラハラが止まらなくなってきた。こんな所でなんて、絶対負けてほしくないのに。

「木兎さん、一度交代しましょうか」
「は‥しねえよ、」
「こんな状態で足を引っ張るのはいただけません」
「おい、ちょい、赤葦、」
「ここは決勝戦ですよ」

京治の声が小さく聞こえてくる。何を話しているのかまでは聞こえてこないけれど、あの冷えているような顔付きは、結構怒っているそれだ。

「何があったとしてもこんなカッコ悪い所、‥‥見せたら駄目ですよ、アイツ応援しに来てんのに」

何話してんだろう。‥いや、そんなことを考えちゃ駄目だ。だって私には応援することしかできないんだから。

2019.09.03

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