「あかーしは夜鷹のなんなの?」
「は?」

突拍子もない質問だったかもしんない。けど、どーしても1回は聞いてみたいことだったのも確か。ストレートも、クロスも、サーブも、レシーブだって今日はなんもかんも上手くいかなくて、むしゃくしゃして部室で着替えていたその隣で制汗剤のスプレーをシューシュー撒いていた赤葦の顔を見てつい、頭の半分以上を埋め尽くしていたことを口から吐き出した。

最近夜鷹が、変。昨日は特に変だった。顔もよく分かんねえ後輩と2人きりになったのは、多分アレは、いや多分じゃなくて間違いなく夜鷹がそういう風に仕向けたやつ。いやいや、俺は別にお前の後輩と仲良くなりたい訳じゃなくてですね、「考えさせてください」と渋い顔で言っていたお前と話しがしたいっていうか。そんなことを言おうと思ったところで夜鷹は既に遥か向こうにいて、後輩の女の子が俺のことをきらきらした目で見つめていた。いや勿論、それが嫌いとかそういんじゃねえしいつもの俺だったら鼻高々に声を掛けていた気がするけど、今回は訳が違う。あいつが何考えてっかまるでわかんねえ。

俺の告白まずった?とか、ムードなかった?とか、そんなことをガラにもなく考えて落ち込んだ昨日。そして打って変わって今日はイライラモードだ。なにやっても上手くいかねえんだもんよ、そりゃ腹も立つ。ついでに夜鷹も自分が言いたいこと言ってくれなくてむしゃくしゃする。分かってんだぞ、俺のことを見る目がすっげー恋するオンナみたいになってんの!‥多分、だけど。

「なんなのって、幼馴染ですけど‥」
「違う!そういうはっきり分かってるような部分じゃなくて!」
「‥貴方は俺に何を言わせたいんですか」
「女としてどー見てんのかってこと!」
「ぶっ」
「ゲッ!?木葉汚ねえ!」

後ろにいた木葉が、思いっきり噴き出したけど、そんなことは気にしてられない。例え木葉が吐き出したスポーツドリンクが床を汚したとしてもだ。

赤葦と夜鷹は幼馴染で、誰から見ても仲が良い。偶に「お前らなんかあるだろ」って思うくらい近い時もあるし、お互いの口からお互いの名前だって良く聞くくらいだ。俺は幼馴染なんて存在いねえから分かんねえけど、男と女で同級生とくれば思春期が邪魔してどーのこーのってなるって聞いたから、だから2人は仲良すぎて変じゃね?って思ってた。
正直に言えば、もやもやぐるぐるしている理由は分かっている。だって俺夜鷹が好きなんだ。恥ずかし気もなくたった1人で声援を飛ばしてくれた時、こんなカッケー女の子いるんだなって思ったし、たくさん元気だって貰えた。俺はスゴイ。だけど、応援や声援はもっとスゴイ。公式試合はいつも応援してもらってるし体では分かっていたつもりだったけど、改めてああいう風に言ってもらえて再確認した。

「あー‥」

赤葦に嫉妬してるってちゃんと分かってる。‥だから赤葦は狡いって思うんだよな。トツベツっぽいその関係に俺が割って入っていけるのかって言われたら多分それは違う。俺は自分からトクベツになりにいかないと形成できない関係であって、持って産まれたような関わりには、ちゃんとバレーみたいに頑張らないと勝てもしないのだ。

「木兎はなに瞑想してんの?」
「迷走の間違いだろ。オーイ」
「つーか木兎恋してんの?それは俺に聞けよォ」
「木葉振られっぱなしじゃん」
「経験値の話ししてんだよコノヤロウ」

好き勝手に話している同期のチームメイトは放っておいて、じっと赤葦の様子を確認する。表情に変わりは殆ど無い。‥無いけど、心なしか困っているような顔だ。直感でしかないが。

「夜鷹のことは幼馴染からランクが上がることも下がることもないですよ。多分あっちもそう」
「‥多分?」
「絶対に修正しますね」
「おう」
「考えてもみてください。ただ下見に行った奴が木兎さんのことだけじっと見て追っ掛けるなんておかしいでしょう」
「おお」
「普通いきなり声高らかに練習試合なんかで1人の選手を応援し出すバカいませんよ」
「俺も出来るけどな」
「貴方に換算して考えないでください。普通は≠チて言ってるんです」
「赤葦すげえな。最早ディスってんぞ」

じゃあやっぱ、俺が夜鷹に惹かれてると同時にあいつだって俺のこと気になってるんじゃねえの?なんで考えさせて、とか言ったんだよ。なんで後輩と2人になんかさせたんだ。男の考えてることだって人によってはまだ分かんねえってのに、どうやってオトメゴコロを分かれと。むしゃくしゃするままに頭を掻きむしって、床に額を擦り付けてみたって何かが判明できる訳でもない。腹立つ。なんかあるなら言ってくれなきゃ、俺はそういうのを逸早く気付いたりすんの苦手だから。

「木兎さんはそのままでいいと思います」
「よくねえから困ってんの!」
「強いて言うならしつこく接してやってください」
「‥そんなんでいーの?」
「逃げるの得意なとこあるんで、逃げられたくなければ」

貴方だって、逃げられるのは癪でしょう?
そう言いたげな赤葦の目は少しだけ笑っている。‥あれか、逃した猫は大きい、みたいな。いや犬だっけ?なんでもいいか。
逃げられるのは確かに嫌だ。そんな中途半端な気持ちで告白した訳じゃねえし、もやもやしたままいつの間にか俺の言葉でさえなかったことになっていた、なんてのも当然ながらあってはらならないことなんだ。

2019.06.11

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