「ハンバーグとステーキが付くセットか、グリルチキンに丼付きのやつか!悩むな!‥夜鷹はなに頼むんだ?」
「‥迷ってます」

迷ってる中に、グリルチキンに丼付きの木兎先輩と同じやつが選択肢に入ってるなんて言えない。だってお腹空いてるから。スパゲティとかオムライスじゃなくて、定食っぽいの食べたいのに、恥ずかしくて無理。メニューと睨めっこをしながら次に目に入ったのは野菜ちゃんぽん。いや、なしなし、お汁が飛んで制服汚れるの見られたりしたくないし。だったらもうパフェとかしかなくなってくるけど、違うそんな気分じゃないの!

店内には、私達みたいな学生はいなかった。その代わりに仕事帰りのサラリーマンとか、子供連れのお母さんばかり。あとは、カップル。‥私達もそう店員さんからそう見えてるのかな。そう思ったら嬉しいような恥ずかしいような不思議な気分だ。

「なにで迷ってんだよー。‥パフェ?」
「え、あ、えっと‥」
「部活終わりだろ?飯食えばいーじゃん」
「うう‥」
「パフェはデザートにして、こっちな!」
「え、」

ちょっと待って、まさか先輩は私にご飯もデザートも食べさせようとしているのか!いや今日はお金のことはそんなに気にしていないけど、食べる量を気にしているのだ。少しでも可愛いと思われたい一心だったのに、それを少しも気に止めることなくご飯のページにした先輩はお腹が空いて待ちきれないようである。どうしよ、どうしよう‥。先輩を待たせる訳にもいかないけど、定食を頼む訳にもいかないし‥!

結局私は慌てて店員さんを呼ぶ為のベルを鳴らし、特に気にも止めていなかったメニューを指差した。無難すぎる、トマトベースのオムライスである。ファミレスの洋食って量少ないんだよなあ‥ちょっとだけがっくりしながら先輩の注文を聞いていると、先輩は私の食べたいと思っていた物をご飯大盛りで注文して、さらにポテトフライまで追加していた。‥うう、羨ましい。とは言え、何かを発言する訳にもいかない。

「夜鷹って少食なんだな」
「‥通常の女子は多分こんなものですよ」

まあ、私ほんとは違うんですけどね。ちょっとした嘘を付いてるのが心苦しい、というよりはなんだかショック。ちゃんと自分を出せればいいのになんて思うけど、今はやっぱり難しいのだ。この状況を考えれば恋する女の子なら誰でも納得してくれるはず、と思うしかない。

「俺はこう、たくさん食べてる女の子って結構好きだけどな」
「え、」
「っつーか、夜鷹って結構食べるキャラって聞いてたけど」
「ええっ、ま、だ、誰から‥?」
「あかーしから」

あいつまた余計なことを!人が木兎先輩好きなことを分かっていてそんなことを言うとは酷い奴である。なんだか嘘がバレた気持ちになってしまってなんとなく凹んでしまって、でもたくさん食べてる女の子が好き≠チて言う先輩に、今の自分の発言を訂正したくなった。単純にも程がある。

「だから別に俺の前でそんなこと誤魔化さなくてもいいんだぞ」
「誤魔化してる訳じゃないんですけど‥あの、あんまりがっついてると引きません?こう、女として的な‥」
「なんで?俺は美味しく食べてる顔見るの好きだし、なんかこっちまで幸せになってくるけどな。美味いんだな〜ってなる。食べてるもん食べたくもなるけど!」
「そんなものですかね?」
「そんなもんだよ。まあでも今回は足りなかったら俺の少しやる」
「ええっそれはいいです!」
「その代わり俺にも夜鷹の一口くれな!」

その数秒後に運ばれてきた先輩のグリルチキン丼付きの定食はやはり美味しそうで、私のお腹がまた音を鳴らした。その次に運ばれてきたオムライスなんてオモチャに見えてくるくらい量は少なめで、やっぱり意気消沈である。頼む前にその木兎先輩の言葉を聞けばいくらか気持ちは変わっていたのに、とても残念だ。でもしょうがない。腹に入れば多少は同じだ。絶対足りないけど。

「夜鷹、ほら」
「‥いいんですか?」
「夜鷹は特別な。夜鷹じゃなかったら俺の肉なんか誰にもやんねえよ」
「あ‥ありがとうございます、」
「?なんで、このまま食べればいいじゃん」
「でもそれ先輩のフォーク、」
「気にすんな!」

私は気にしますけど、先輩は気にしないのか。そう思ったらもう変に遠慮とかしなくてもいいような気がしてきて、差し出してきたフォークのお肉をそのまま頂いた。‥なんか物凄い恥ずかしいけど、木兎先輩全く気にしてないみたいだし。なんかわたしばっかりドキドキしていっそ腹すら立ってくるけど。

「あ」
「え」
「夜鷹のオムライス一口!」
「や、食べてどうぞ‥」
「えー、あーんしてくんねーの?」
「しっしませんよ!はい!どうぞ!」
「ちぇー」

ちぇー、なんて言っている癖に、なんだか随分と楽しそうだ。でも確かに、私が今見ている木兎先輩の美味しそうに食べている姿はこっちまで笑顔になってきてしまう。片想いとは言え、好きな人と時間の共有をするっていうのはこんなに幸せなのことなのか。

「‥ゲ、一気に半分も食べちまった!」
「え、‥えー!先輩何やってるんですか!?」
「わり!ほんとに!悪い!」
「‥じゃあ先輩の半分ください」
「エエッ」
「半分食べちゃったの先輩じゃないですかー!」
「‥ぶっ、はは、やっぱ夜鷹食べるの好きなんだな!じゃあ今日は特別にもう1個オムライス奢る!」
「も、もうっ‥ふふ、」

なんで上から目線になったんだろう。よく分かんないけど、私もなんだか可笑しくなってきちゃって笑ってしまった。とは言えまさか先輩、またオムライスを頼んでしまうとは。我儘言って違うもの頼めばよかった。なーんちゃって。

2019.03.10

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