部活動っていうのは、自分の好き勝手に休めるような行事ではない。集団行動なのだから当たり前である。もちろんそれは分かっているが、流石に今回ばかりは休みたいと顧問に念を送っていた。まあ、無理なお話なのも承知の上だ。

明日から我が梟谷男子バレー部はインハイの予選が始まる。私の所属しているチアリーディング部は基本的に色んな部活への応援に赴くことが多いが、それは予選の準決勝からだったり、全国に行ってから、というのが基本であった。だから、シード権があれど予選の一番最初、つまり一試合目から応援に行くなんてことはまず、ない。‥でもほら、一試合目から見たいって思うのはしょうがなくない?木兎先輩の活躍、‥というか、好きな人の活躍ならいくらでも見ていたいじゃん。我儘を言うならキャプテンという地位を使って休みにしてみたいが、それは私の上に顧問という壁があるのだから、見に行くことができるのは限りなくゼロである。いやむしろゼロだな。

「お疲れ様でしたー!」

体育館の中央に集まって部活終わりの挨拶をした後、ばたばたと片付けだすメンバーの間をすり抜けて、既に職員室へ戻って行ったであろう顧問の先生の元へと向かった。新しい衣装でのリハーサルの話をする為である。小テストもあったばかりだったから、採点とか色々な業務もあるんだろうけど、ちゃんとやらなきゃいけないことはやっておかないと。そんなことを考えながら歩いている後ろから、賑やかな声と、その中心人物であろう人の声が聞こえてきた。あ、この声、‥と思った瞬間、「夜鷹ー!」と大きな声が廊下いっぱいに響いてくる。いつの間にか「赤葦の!」から名前呼びに変わっていることに気付いたら、どうにも嬉しくて恥ずかしくて緊張して、なんとか緩む口元をもにゅもにゅしながらゆっくりと振り向いた。

「おっ、チアのキャプテンちゃん!」
「夜鷹!元気かー?」
「こっこんにちは木兎先輩」

私ってば、なーにがこんにちは≠セ。昼も会って挨拶したくせに。木兎先輩の後ろには、部員であろう人達が溜まっている。その中にはもちろん京治もいた。‥あいつめ、他人事だと思ってニヤニヤしてるな。私が先輩と会って変な顔しているのを遠目で見て笑っている。そんなに私の顔がおかしいか。だって木兎先輩今日もかっこいいんだもん。「赤葦の」じゃなくて、「夜鷹」って呼んでくれるのが普通になったんだもん。

「もう部活終わったのか?」
「はい。先生の所に用があって」
「なんだよ、木兎ばっかずりー!俺にも紹介しろっつの!」
「木葉も知ってんじゃん。チアのキャプテンの夜鷹」
「そんなこた知ってるわ!赤葦の幼馴染だろー?俺木葉秋紀、秋紀君でいいよ」
「はあ、」
「ふざけんな!俺だって光太郎君って呼ばれたことないのに!」
「夜鷹ちゃんに名前呼びしてもらうのになんでお前の意思が必要なんだよ」
「つーか木兎必死すぎ」

分かってはいたが、随分賑やかな部員さん達ばかりである。‥というか、なに、私に光太郎君って呼んでもらいたいのだろうか、先輩は。やだ、それ「どんな関係?」ってなるやつじゃん。呼んでいいならぜひ呼びたいけど。

「あ、そうだ。なあ、部活終わるまで待てたりしねえ?」
「へ?‥えーと‥何時に終わるんでしたっけ‥?」
「今日は8時!」
「あと2時間かあ‥図書室で本読んでてもいいんですけど、なにかありました?」
「この間メールで言ってたじゃん。今度は一緒に行けるといいですね≠チて。あれってファミレスの話のことだろ?」
「エッ」

待って。なんでこんな人がたくさんいるところでそんなこと言っちゃうの。も、もちろん間違ってはないんだけど、めちゃくちゃ恥ずかしいじゃん!これ、人によったら「お、デートのお誘いしてたの?」って思われちゃうよ!

私のそんな思考なんて見える筈もない先輩は、ただただ首を傾げているだけだった。どうしよう、ここで「はい」と答えたら、周りから勘違いをされるかもしれない。それでもいいと、言うなら、‥そりゃあ、まあ‥。ぐるぐるぐるぐる、物凄いスピードで脳みそが回転している気がする。ここでイエスと言うべきかノーと言うべきか困っていると、少しずつ少しずつ、木兎先輩の顔が曇っていった。

「‥嫌?」
「めっ滅相もないんですけど!‥えと、あの、皆さんもご一緒ですか‥?」
「俺らも誘ってくれるの?超優しいな〜夜鷹ちゃんは〜」
「ダメ!」
「なんでだよ!」
「邪魔!」
「あ!?」

すごい。こんなに隠すような素振りもなくばっさりと切り捨てる人初めてみた。逆に踏ん反り返って言っているのがいっそ清々しい。呆れた顔をして、もういいわ好きにしろよコノヤロウ!って暴言を吐く木葉先輩を、他の人が笑いながら面白おかしく慰めている。‥よく分からないが、どうやら私と木兎先輩は2人でファミレスに行くことになりそうだ。

「じゃあ夜鷹、終わったら連絡するな!」

まるで嵐のように去っていく木兎先輩達に緩やかに手を振って、そしてはた、と気付く。

‥ちょっと待った。ホントのホントにデートになっちゃったじゃん!

2019.02.28

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