恥ずかしい!って思っていた心は、もうどっかに行っちゃった。あの後から木兎先輩の快進撃が始まって、序盤の不調はどこに行っちゃったのかってくらいの絶好調。サーブを打てば大体サービスエース、アタックを打てばライン超キワッキワの絶妙スパイク。もちろん少々のミスはあったにしろ、そんなのは気にもならない。まさにエースの活躍、その名の通り。

「すんごいね‥さっきまでの目立たないあの先輩なんだったの‥?あんたの応援のおかげじゃん‥」
「で、でしょ‥応援って凄いんだよ‥」

いや、効果があるのはなんとなく分かってたけど、ここまでの効果があるなんて。逆にこっちが驚きたい。練習試合が全て終わった後、片付けをする選手達を見ながら私はにやにやとする頬っぺたを手で押さえて気を引き締めた。
やっぱり木兎先輩は、とてもかっこいいのだ。さっきまでしょぼんとなっていたことを忘れちゃうくらいに良い顔をしてた。本当にバレーが好きなんだなあって、あんまりバレーに詳しくない私だって分かる。キラキラ光って、宝石みたいで、目が離せなくなるから。

「夜鷹!」
「はひ、ん?」
「いや私じゃなくて呼んだのはアッチ」

びっ。友人が指差した先には、ぴょんぴょんと飛び跳ねている木兎先輩の姿だ。うわ、すごいなんか目立ってる‥さっきの音駒の人とかも近くにいる、すごい目立ってる!前言撤回、やっぱりなんか恥ずかしくなってきた。だからって無視する訳にもいかず、そろそろと手を振り返してみた。その瞬間、京治にタオルやビブスやらをどさっと押し付けて木兎先輩はこっちまで走ってきたのだ。

「え、うわ、なに?愛の告白かなんか?キャー」
「棒読みしないでよ!」
「夜鷹サンキューな!」
「ギャイ!?」

走ってきたと思ったら大きく3歩分飛んで、目の前で着地。なんか鳥みたいだなあ、なんてぼんやりしてたら、がばっと抱きつかれた。‥ん?抱きつかれた?おかしくない?私なんでこんな冷静でいられるの?おかしくない?

「ちょ、木兎さ‥夜鷹‥!」

ぐるぐる、頭の中が酷く沸騰して熱い。木兎さんの熱が分かっちゃう、それくらい近い距離で、彼の鼓動の音まで聞こえた。ドクドクしてた。運動したばかりで、走ってきたばかりで、汗の匂いがする。全然嫌じゃない独特の香り。‥ヤバイなんか沸騰しすぎて鼻血出てきそう。

京治が慌てて木兎先輩の後ろから走ってきたことまでは覚えてる。他は、一緒に来ていた友人が目を白黒させてたことと、木兎先輩のドアップ、くらい。









「‥あ、起きた!」
「起きたか!?ぐえっ」
「貴方はいい加減学んでください。起きがけの1発目にまた失神させる気ですか」
「あかーしこええよォ‥」
「夜鷹チャン、大丈夫?」

目が覚めた先には、白い天上と、真っ赤なジャージがある。それと、黒い変な頭。それが音駒高校男子バレー部のジャージであることを思い出した瞬間飛び上がってしまった。そういえばまだ片付け中だった筈で、音駒の人もいたような。それで、ここが保健室。私は?私は、‥確か、木兎先輩が走ってきたと思ったらそのまま抱きつかれ、た、

「あ、なーんか色々思い出したっぽい?」

にやあーっと顔を崩した音駒の人に、ぎくっと背中が波打った。ってかなんで私の名前知ってんの、‥っていう質問は野暮かもしれない。だってここに京治と木兎先輩いる時点で大体分かる。多分、‥多分、まあそういうことだ。

「ごめんなー。こいつが前触れもなく抱きついたりするから」
「だってそんな吃驚するなんて思わねーじゃん‥」
「男でも木兎さんの力に吃驚することあるのに女の子が吃驚しない訳ないじゃないですか」
「ないじゃないですか‥?どっちですか‥?」
「それは流石に察してくださいよ」

やばい、思い出すとまだ身体がほかほかする。熱とかじゃなくて、単純にドキドキして。どうやら片付けやらなにやらは殆ど終わっているらしい。音駒の人は、帰るバスが来るまでもう少しだけ時間があるから気になって私のことを見にきたのだとななんとか。‥いやこの人絶対何か悪巧み的なのあって来てる気がするんだけど突っ込んだら面倒臭そうだしやめておこう。

「夜鷹、うち親迎えに来てくれるみたいだから送っていくよ」
「いやいや病人じゃないし大丈夫だって」
「夜鷹ってもうちょい待てる?」
「え?な、なんでですか、」
「俺が送る!俺のせいっぽいしな‥」
「えっ!え‥別にあの‥先輩のせいでは‥」
「いーんだよ!だから!待ってろ!」

この間も送ってもらったのに、また送ってくれるのか。今度は自分から送るとか、そんなこというの卑怯すぎる。そのまま扉から飛び出して行った彼の姿に溜息を吐いた京治が、「‥らしいから待ってなよ」って呆れたように笑った。なんなの、‥最近凄い日が続いてる。木兎先輩と、急に近付いちゃって、心臓がいくつあっても足りないのでは。

「なに?夜鷹チャンは木兎のお気に入りなんだ?」
「ちがっ‥そんなんじゃないです、」
「でも木兎の奴、ずーっと心配そうだったけど?」

この人ほんとにダメ押し。名前も知らない音駒の人からそんなことを言われちゃったら、私のライフはもう0だ。

2019.01.01

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