明日は、待ちに待った男子バレーの練習試合当日だ。何を着て行こうか迷ったけど、無難に制服が良い気がしてきている。クローゼットから引っ張り出してきた可愛いスカートとぴらぴらのトップスは、役割を全うすることなくまたクローゼットに戻すことになりそうだ。

「夜鷹ー、早くお風呂入っちゃいなさいよー」

1階からお母さんの声が聞こえてきて、ふと時計に目を向けた。さっきまで確かに9時前だった気がするけど、もう10時を過ぎている。そんなに悩んでいたってことか。しかも悩んだ挙句結局制服で行くとは、時間の無駄というものだ。
制服で行こうと思った理由は色々ある。変に気合い入ってるって思われるのも嫌だし、木兎先輩の好みから外れていても嫌だ。でも制服なら見慣れているだろうし、制服をいつもより少し着崩してみればいつもと違って見えることだってあると思う。それがどう思われるかは分からないけど、可愛いと思ってしてきた格好に残念がられてしまうよりは多分、よっぽど良いはずだ。

「お風呂はいろ」

タンスの中から1番可愛い下着を手にして気合いを入れる。応援ついでに下見。‥というか、むしろ下見もついでかも。私は結局木兎先輩を試合で見たいだけ。偶々行ける理由があったから練習試合にまで足を運ぶのだ。いつもだったら絶対練習あるもん。
明日、下見に一緒にいく同級生に集合時間のメールを送ったのをもう1回だけ確認する。そうして1件だけ全く知らないアドレスから来ていたメールを無視してお風呂場に向かった。楽しみだなあ、明日。‥いや、遊びに行くわけじゃないんだけど。










ねえ、どういうことだこれ。

昨日無視したメールを今開いたのがまずかった。集合時間に待ち合わせた場所について、待ってる間の暇潰し。件名がなしになってるのも気付かない要因だったけど、件名なんて普通つけないもんね。何の気なしに本文を開いてみたら、俺!木兎光太郎!≠チて書いてあって飛び上がった。本物なのか分からなかったけど、この自己紹介は多分本人だ。それに、誰が私のアドレスを教えたかなんてのは考えなくても分かる。赤葦の京治しかいない。なんで教えたのかは分からないけど、彼しか接点が思い浮かばないから。

「さっきからどういう顔してんの?怖いんだけど」

隣で私服に身を包んだ同級生が、じとりとした顔で私を見ている。

「あ‥いや、なんでもない‥」
「嘘くさい。吐け」
「首絞めるのやめて」

まあ嘘じゃないんですけども。それでも、まさか1つ上の好きな先輩からメールが来たなんて言える訳なくて、それよりも昨日言ってた資料ちゃんと持ってきた?と話しを逸らしてみる。げ、忘れた、と慌てた所で、疑問に思っていたメールの内容はすぐ忘れてくれたみたいで助かった。けど、忘れられたのはちょっと困る。

結局持ってきていたメモ帳を使って、あとでもう1回記入すればいいやってことで落ち着いた。そのままバスに乗って、練習試合のある学校まで急ぐ。梟谷ではなくて、音駒高校という所で行われるので少し遠いが、楽しみだから苦痛ではなかった。

「ねえ夜鷹、なんか赤葦君に呼ばれてない?」

着いて早々、同級生が私を呼んで向こう側を指差した。そこには、少々顔をむっすりとさせた京治と、なんだかがっくりと肩を落とすチームメイトと、その中心に沈んだ顔の木兎先輩。
‥いや、なぜ。今そちらはどういう展開状況ですか?

「夜鷹、昨日木兎さんにメール返してないの?」

駆け寄ってきた京治の第一声は、比較的に落ち着いてはいたけどちょっとだけ怒っていた。その怒っている理由がなんにせよ、君がそれを言うべきことではないのでは?私は木兎先輩に教えてなんぞ言ったことはないし(いやメールが来たことに関してはとっても嬉しいのだけれど)、こっちは突然のメールに困惑していたのだから。

「返して‥ないよ、いや無理でしょ、そんないきなり俺!木兎光太郎!≠チてメール来たってどうしたらいいか分かんないし‥」
「木兎さん‥メール‥下手か‥‥」

頭を抱えた京治の後ろ側は、なんとも言えぬお通夜ムードである。え、もしかしてこのお通夜ムードの原因って私なのかと思った瞬間、ちょっぴり頭を上げた木兎先輩と目が合った。子供みたいに不貞腐れた目がすぐにふいと逸らされたことが、なんだか物凄くショックだ。

「おーおー。今日の木兎クンは開始前から絶不調ですかネ?」
「くろお‥」
「うはは、おーい赤葦、今日こいつダメダメじゃん。大丈夫かよ?」
「大丈夫じゃありません」

赤いユニフォームを来た人が木兎先輩を揶揄っている。そうして木兎先輩がちらちらとこっちを見ているのは、多分何かを訴えている証拠。メール、何か返せばよかったの?頑張ってくださいとか、今日行きますね、とか?そんな私の一言を待ってたっていう、‥そういうこと?

「っは!?いや、え?夜鷹なに、顔あっか!」
「うるさいちょっと黙ってて‥」

それなんか、めっちゃ可愛くない?自惚れちゃうのもしょうがなくない?‥私のアドレスを教えられたのか知りたかったのか、一体どっちだったの?

2018.10.30

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