昔からの顔馴染みとか、小学生からずっと一緒でとか、ライブハウスで一目惚れして一緒にやろう!とか。バンドメンバーにはそれぞれ何かしら思い入れがあるものだと思っていた。私達はただ、同じ場所に居合わせただけだ。本当に偶々。なのに、運命かもしれないって感じる程には随分と噛み合ったグルーヴ感と音鳴り、アンサンブル。細かいことまではよくわかんないけど、スカッとするような爽快感。セッション曲とか結構知ってる所を見ると、2人はそれなりに場数も踏んできたんだと思う。いやまあとにかく。‥とにかく気持ちいい。すっごい気持ちいい!

「発音流暢やな〜!テンション上がるわ〜!」
「喋れんの?」
「あんまり‥でも近い発音にしたくて何回も聞いてた!」

小ちゃいスタジオでガンガンに掻き鳴らしても煩いとか全く感じなくて、全部含めて1つの音を形成してるとかそういう表現がしっくりくる。侑さんのベースの音作り、厚みがあるのに綺麗だし、治さんのドラムだってスナッピーの効いた深い良い音が出る。リズムが取りやすくて、勝手に身体がのってくるから歌いたくてたまらなくなるのだ。これ双子の為せる技なのかな?

「なあ、なまえちゃん曲作っとるやん?ちょっと適当にアレンジしてやってみいへん?」
「この後誰か入っとんやで。時間もそんなにないんやしもうちょいスタンダードで合わせようや」
「俺は!今!やってみたいねん分かる!?」
「うっさ‥」

テンションの上がりっぱなしの侑さんに、私もテンションが上がっている。合わせるってこんなに楽しいんだと思ったら、もっともっと色々やりたいと思っちゃって、がちゃがちゃと販売用のCDを取り出した。最近出したばかりの、ジャケットとか内容とか、全部全部自分で手作りしたCD。もちろんレコーディングとかマスタリングとか技術的な所は知り合いの人に頼んでやってもらってるから、それ以外の所は、だけど。‥ちょっと興味が出てきてる。バンドにしたら、この人達にかかったら一体どんな風になるのかっていう興味が。

「あ、これさっき手売りで売っとったやつやん」
「よかったらどうぞ!」
「え‥いや、金払うで、流石に」
「いい、いいです!その代わりあの、‥もうちょっとやってみたいです、3人で」

きょとん、と2人の目が同じくらい丸くなって、そしてふははって同時に笑った。‥あ、あれ‥?私もしかして単純にからかわれた感じ‥?なんだかすっごく恥ずかしくなって、穴があったら入りたい気分だ。今更発言したことを撤回もできなくて、自惚れていたらしい自分の口を腕で抑えて黙り込む。なんだ‥からかってたのか‥あんな辺鄙な所で歌ってるからからかわれた‥?

「すまん、同じようなこと考えとったからつい、」
「仮バンドやな、仮バンド」
「気ぃ早」
「え‥‥ほんと、ほんとに?」
「こんな良い声逃すわけないやろ」
「やろうや、バンド。多分これ運命やで」

私と同じこと考えてた治さんに、今度は侑さんが爆笑している。くさ!!くっさいわ〜サム!!なんやお前だってどうせおんなじこと思とったやろ。スティックで頭をばちばち叩いて、喧嘩に発展しそうな2人をなんとか止めて、それがなんだかおかしくておかしくてたまらなかった。












「そういやそのジャージなまえちゃんの?」

楽器やマイクを片付けて、スケジュールも3人で話し合って書き込んで、待合室で私の会員カードを作っている最中だった。あまりに大きくて不恰好なジャージを見て侑さんが思い出したように首を傾げている。ええ‥なんて言ったらいいものか。ファンの人が貸してくれた?‥確かに声が好きだとは言ってくれたけどちょっとまだよく分からない。バレーボールをしているという、影山飛雄君。寒いからって貸してくれたジャージはぽかぽかと暖かいから、実際かなり助かってる。そういえば影山君は大丈夫なんだろうか‥。

「彼氏やな」
「ちが!あの‥友達‥?」
「いや知らんけど」

ちょっとだけしか2人との時間は過ごしてないのに、だいぶ打ち解けてしまったらしい彼らはにやにやとしたりつんと突き放したり。その温度差に慣れないといけないかも、なんて思いながらぶんぶんと首を横に振る。影山飛雄君。‥確かに、身長高いし、真っ直ぐ向けられた時の黒い瞳、どきっとしたなあ。

「苗字さんの声、すぐ見つけられる自信あるんで」

思えば恥ずかしいような台詞もすらすらと言えちゃうし、あれ、天然なのかな、計算なのかな‥。いやあの感じからして天然だな。ぽわっと熱をもった頬っぺたを両手でばちりと叩いて、とりあえずこのジャージをいつ返そうかと考えた。後ろで2人がぶつくさ言っていたのは気にしないことにしておこう。やっぱ彼氏やで。‥だから彼氏じゃないんだってば。

2018.04.04