眩しすぎる光は嫌いよ

休暇も残り1週間を切ろうとしている頃。カカシ先輩は今だに変な行動をすることがあるものの、一緒に生活することに慣れてきた私は現在生活用品の買い出し中だった。

「あっ!ウミのねーちゃん!!」

聞き覚えのある声が後ろから聞こえてきた。なんとなく幻聴であってほしいと思うのは私だけだろうか。ゆっくり後ろを振り向くと、やはりナルト君が大袈裟にブンブンと手を振り駆けてくるのが見えた。

「なにか用でしょうか」
「いやー!今日任務もないから修行しに家出たらさ、ウミのねーちゃんが歩いてんのが見えたんだってばよ!」
「そうですか。それでは修行頑張ってください」
「ねーちゃんは何やってんの?」

話し終わったんじゃなかったっけ。小さめの買い物袋を持ったままさっさとこの場を離れようとしたが、まだ会話は続いているらしいナルト君に視線を向けた。

「買物です」
「あー、カカシ先生のお守やってんだっけ」
「どっちかというと逆です、私が居候なので」
「なあ!なあ!ウミのねーちゃんってカカシ先生のマスクの下見たことある?!」
「話がすぐ変わりますね‥何故ですか」
「俺まだ見たことなくてさ、何回も見せてくれって言ってるのにいっつも見せてくんねぇの!」

‥そんなことで怒っているのか。中々にくだらないなあと目が点になりそうだったけど、なんとかそれを押し留める。

「‥はあ、そうですか。残念ながら私も見たことがあるか覚えてませんね」
「げっ、そうなの!?一緒に住んでて見たことないとかどういうことなんだってばよ…」
「力添えできなくてすみません。それでは」
「…って、ちょっと待った!!なんでそんなすぐ帰ろうとすんだよ!」
「用もなさそうでしたので」
「‥用でもねえと喋っちゃいけねーのかよ」

不服だとばかりに腰に手を当てるナルト君は眉間に皺を寄せている。用がないと喋っちゃいけないわけではないが、私はまだ買い出し中であり、そもそも長々とした小言にもあまり付き合いたくはない性格だ。よって早くこの場から去りたい。その気持ちを早く察してほしい。

あれ…そういえばその台詞。心の中で文句を並べていていると、昔同じようなことを言われたような気がして首を傾げた。するとちょうどナルト君で被っていた顔岩が見えて、はっとして目を見開く。‥4代目火影、黄色の閃光。に、そっくり‥、

九尾事件で4代目火影・波風ミナトが亡くなりその4代目の1人息子に九尾が封印されていることは知っているな。その1人息子の九尾の封印だが、今はもう安定していて心配はない。安心してもらって良い。

5代目の帰還命令を受けた手紙に書いてあった文章を1つずつ思い出す。誰かに似ていると、初めて会った時から思ってはいた。思ってはいたけど‥あの手紙に書いてあった4代目の1人息子ってまさか。

「ナルト君、貴方の父親は誰ですか」
「は、なんだよ急に…人の話聞いてたのか?質問してんのは俺なんだけど…」
「私もナルト君に用ができたということです。で、誰ですか」
「…あの顔岩の4代目火影だけど」
「そうでしたか…ミナト先輩の…」
「へ?ミナト先輩?」
「ああ、特に深い意味はありません。年上の方には皆"先輩"を付けているだけですから」
「ふーん‥?あ、じゃあじゃあ!ウミのねーちゃんは俺のとーちゃんよく知ってるってことか?」
「詳細はカカシ先輩の方が詳しいですよ」
「へー…そっか、そっかそっか!」

さっきまでむくれていたことも忘れて、急に笑顔を取り戻すナルト君にミナト先輩の笑顔が重なる。尾獣の人柱力でこんなに明るい人がいるんだ。

尾獣の人柱力と言えば、里中から忌み嫌われていて、当事者も性格が曲がっているイメージがあった。かく言う私も人柱力と似ている身ではあるが、朱雀等の"神獣"と呼ばれる獣は人を護っていた獣でもある。だから、神獣の器になった者は里でも非常に大切にされていて、まあ、言ってしまえばそこが尾獣の人柱力との違いだ。しかし、大切にされていたのが仇となったことも確かである。その点ナルト君は、影も暗さもない、眩しい光のようだった。

「ウミのねーちゃんから見たとーちゃんってさ、どんな人だった?」
「そうですね…‥ミナト先輩は真っ直ぐでとても強い忍でした。私は少し苦手だったかもしれませんね」
「えー?!そーなの?!」

真っ直ぐに私を見透かすような強い目が、感情を抉り出すような言葉が。まあ、本当に少しだけだけど。‥そんなことを思い出していると、ナルト君に少し逃げ腰になる理由が分かった気がした。決してうるさいとか、面倒くさいとか、そういう理由だけじゃなかった。今目の前にいる彼の瞳がミナト先輩によく似ていると、どこかでは感じていたのかということに少なからず納得して、私は苦笑いを浮かべた。

2014.02.21

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