確かに同じ道を歩いていた

カカシ先輩の家の居候になり自分用の布団が増えてから数日後、止められたにも関わらず1人演習場で修行していた私の目の前に現れたのは、1つに括られた髪と鼻に傷を持つ忍の姿で私の数少ない同期の1人だった。

「久しぶりだなあ、ウミ!」
「…イルカ君」
「この間カカシさんに聞いたよ、帰ってきてたなんて知らなかったぞ!」
「帰ってきたのは本当に最近ですから。…イルカ君全然変わっていませんね」
「はは、ウミも変わらないなぁその喋り方!」
「そうですか。皆さんには分からなかったとよく驚かれますが」
「見た目はそうだな…大人っぽくなってるけどやっぱりウミだ」

嬉しそうに駆けてくるイルカ君はにかっと笑うと側にあった切株に腰掛けた。大量の資料をどさっと置いた所を見ると学校の帰りのようだ。任務報告書等を預かる受付の勤務兼、アカデミーの教師もしている。というか、確かしていたはずだ。

「カカシさんが最近テンション高いとは思ってたんだよな。で、ウミは何してたんだ?」
「修行です」

持っていた最後の手裏剣を30m先の木にある千本に向かって投げると、パキンという音と共に地面にパラパラと落ちる音がした。遠くに刺さった千本に手裏剣を当てて砕く。それを最後にイルカ君の方を振り向くと、ぱちぱちと拍手が聞こえてきた。

「さすがだなぁ、生徒に見せてやりたいよ」
「こんなのイルカ君でもできるでしょう」
「いやぁ、全弾は難しいかな‥」

苦笑いを零して頭を掻くイルカ君。いくつもの手裏剣が刺さった木の下に見える眩しいモノは、大量に折れた千本達が太陽に反射している光。まあ正直下忍時代からイルカ君の成績はお世辞にもいいとは言えなかったから、何も言わずに地面に腰を下ろした。

「里が変わり果ててたから吃驚したんしゃないか?」
「そうですね。何より自分の家が無くなっていたことの方が吃驚しましたけど」
「あ…そういえば住める状況じゃないらしいな。カカシさんの家にいるんだっけ?」
「止むを得ず。まあカカシ先輩なら昔からよく知ってる忍ですし、いいかと」
「ウミらしい…」
「イルカ君こそどうなんですか。先生続行中なんでしょう」
「ああ、生意気でうるさいのばっかだけどね。それなりに可愛いよ」
「そうですか」

イルカ君も元々は生意気でうるさくてめんどくさい、そんな子だったと思うが…よく担当の先生に怒られてたのを覚えている。いつからか真面目になっていったがそんな所まで記憶にない。ただ、私が1人修行をしている時に、イルカ君がたまに歩み寄ってきては、隣で手裏剣を投げていたりすることがあった。彼の両親は九尾事件で亡くなってイルカ君は1人、私も木の葉に移住した時にはすでに1人だったから、なんとなく似たものを感じていたのかもしれない。

「上忍になったんだっけ?」
「いつの間にかですけどね」
「なんで特別上忍枠だったんだろうな。あの頃から上忍の器はあっただろうに」
「色々あるのではないでしょうか。それよりイルカ君が今だ中忍なのも謎ですけどね」
「そうかな」
「はい」

私があの時特別上忍であったことには、それなりに理由がある。恐らく、‥朱雀のこと。

私の体に封印された朱雀には特殊な血が流れており、もちろんそれを狙う輩も多い。あの時はまだ光の国と木の葉とのとある契約が破棄されていない状態だった為に、素姓が分かってしまい尚且つ当時は里外任務も多かった上忍ポジションからは外されていたそうなのだ(暗部は素顔や名前が隠される為除外されていたらしい)。ヒルゼン様が亡くなると同時期頃に契約は破棄されたが…もちろんこれは、限られた人物だけが知るトップシークレットである。私も手紙で知らされた事実だ。

「そうだ!今度アカデミーに遊びにきてくれよ。こんな凄いくノ一がいるって知ったら子供達もきっと憧れるし刺激になる」
「子供は苦手ですからやめておきます」
「はは、言うと思ったけど。ちょっとは考えておいてくれ」
「考えた末の結果ですよ」

断固拒否のまま地面から腰を上げると、イルカ君を置いて手裏剣と千本が散りばめられた木の下へ足を運ぶ。手裏剣を回収しながらアカデミーで子供に囲まれた図を想像したが…あり得ないと溜息を吐いた。

「あ、やばい!俺テスト作らないといけないんだった!」

そういう若干抜けてる所まで変わってないなあ。大量の資料を抱え慌てて立ち上がりそのまま走り出したイルカ君は、私に手を振りつつ謝りながらここを去って行った。私もそろそろ帰ってご飯の支度をしないといけないな。ごそごそと手裏剣を詰め込んだポーチを片手に、その場を後にした。

2014.02.20

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