一時停止は性に合わない

「最後の休暇日だったのに悪かったな」
「いえ、特にすることもなくて困っていたので助かりました」

最後の休暇になるはずだった今日、朝から5代目の知らせを伝書鳩から受けた私はカカシ先輩が家を出てすぐ火影邸に足を運ばせていた。火影室には1枚の紙を眺めながらお茶を啜る5代目と、この間もここにいた付き人の女性、そしてやる気のなさそうな青年にいつかの看護婦の姿があった。

「この人スか?」
「ああ、今話していたくノ一だ」
「わーあお!すっごいキレーな子ですねぇ!」

目を開いてまじまじと私の顔を見る、以前治療をしてもらった看護婦さんから視線を外して、ポケットに手を突っ込んだままの青年へと向ける。すると、その青年は面倒くさそうながらも軽くお辞儀だけ返してきた。

「奈良シカマル、深月セナ、翡翠ウミ。お前達に任務だ。先程抜忍と思われる忍2人が里近くに現れたという報告があった。すぐ捕獲に向かってくれ」

「抜忍ですか」
「ああ。先日も木の葉で目撃証言があり中忍の奴等に行かせたんだが、相手はかなりの手練れだったらしく負傷して帰ってきた。今回は何かあった時用に医療の知識があるコイツもいるし戦闘タイプのウミもいる。ゲンマも後で合流させる予定だ。これでいいな?シカマル」
「充分っス」
「頼んだぞ」








「はあー、めんどくせーなぁ…」

あの後瞬身の術で火影室から消えた私達は門を出てすぐの所にある場所にいた。開口一番に「めんどくせー」と溜息を吐いた青年 -- 奈良シカマル君は、見た目同様かなりやる気のない青年らしい。しかし奈良一族の青年でシカマルといえば以前紅先輩が言っていたアスマ先輩の隊のメンバーだった人だ。

彼が、ねぇ…。青空を見上げながらぺたぺた歩くシカマル君は先程の話しの流れからして今回の隊の隊長だ。5代目が指定するんだから何も心配することはないと思うが、正直隊長というにはあまりらしくない人物である。

「シカマル〜、ゲンマ待つう?」
「あー、別にいいっす。ゲンマさんは抜忍捕縛した時に拷問部に持ってってくれりゃいーっすから」
「うわあ、役目あるようなないような…」
「5代目がこの人推したんだからゲンマさんいなくても大丈夫っすよ」

シカマル君が私を指差しながら答えると隣の看護婦さんは「そうなんだー」とのほほんと言葉を返している。空気がのんびりとしていて任務じゃないみたいだ。正直、隊長も隊長だし。

「‥で、何か作戦があるんですかね」
「まあ…つっても捕縛だし、ウミさんだっけ?も、随分腕の立つ忍だって聞いてるし考えてた作戦なんて細けぇことしなくてもすぐ終わっちまう様な気がするんで、作戦はとりあえず無しっすね」
「はあ」
「…そんじゃめんどくせーけど行きますか」
「怪我したらすぐ治すからね!」
「セナさんお願いですから敵の気配する所でそんな大胆発言しないでくださいよ、医療忍者のアンタが狙われちゃ話しになんないっスから」
「わぁかってるって〜」

ほんとに分かってんのかよ…と言いながら地面を蹴るシカマル君に続く。まるで散歩にでも行くような雰囲気の看護婦さん、もとい深月セナさんの方をちらりと振り向いた後、駆けるスピードをあげた。








「奈良隊長」
「んあ?」
「敵の情報は私が火影室に来る前に5代目から聞いていますか」
「ああ‥2人共大きい長剣みたいな武器を扱う忍らしい。向かわせた中忍の1人は深い抉り傷で大量出血。まあでも急いで退避してきたらしいから大丈夫だっつってましたけどね。恐らく武器に精通した奴じゃねーかと」
「そうですか」

木の枝を飛び越えながらシカマル君に話しかけると、こちらを振り向かないままではあるが分かりやすく敵の説明を述べてくれた。武器に精通ということは、忍術や幻術の類があまり得意ではないということだろうか。向かった中忍達が術で対抗出来ない程に速く動ける忍、もしくは中忍達の腕がまだ未熟だっただけなのか…まあ、私の血継限界があればすぐに済むだろうけど…

頭で可能性のある考えを並べていると、微弱ながら殺気の気配を感じて足を止める。それと同時に背中から衝撃を受けて振り向くと、足を突然止めたことに驚くセナさんが鼻をさすっていた。

「あうう…ウミちゃん痛い…どしたの?」
「…2人いますね。二時の方角と十時の方角」
「らしーな…ウミさん、1人おびきだすことって可能ですかね」
「分かりました。セナさんをお願いします」

セナさんをシカマル君に預けて、二時の方角に向けて駆け出すと同時に印を結ぶ。瞳の中心からブワリと広がる色に赤が塗り潰され毒々しい紫に変わると、視界から埋れていた木の影に人の形が浮かび上がり、透けるように体の構造までもが瞳に映る。

「秘術、炙火(あぶりび)」
「っ、ぐあああァ!!!」
「おい!どうした!?」

二時の方角で叫び声が上がると同時に、十時の方角から出て来た抜忍を影真似の術でシカマル君が捉える。影真似の術は奈良一族の秘術だったのを覚えていてよかったと思いながら、二時の方角から心臓付近を抑えてよたよたと出てくる抜忍を捉えた。目を閉じて瞳の色を戻し、今だ苦しそうにする抜忍を拘束後2人のいる場所へ帰ると、恐らくシカマル君かセナさんが眠らせたのだろう抜忍が、地面に仰向けになっていた。

「…随分早かったっスね。すげー声したけどその人大丈夫なんすか?」
「問題ありません」
「テ、メ……いっだい、なに、を…!!」
「はいはい、君も静かにねー」
「ぐゥ!?」

セナさんはポシェットから太い針を出すと、蓋を外して抜忍の首に思いっきり突き刺した。同時に息絶えるようにがくんと落ちる体。注射の打ち方が雑なセナさんに2人苦笑いしながら長剣を回収し、2人の体を一緒に締め上げている時里側の森から千本を咥えた男が見えた。

「お、さすがだな。もう終わったのか…誰だアンタ」

カチカチと千本を鳴らしながら、言葉の途中で視線を私に向けた不知火ゲンマ先輩は怪しいものでも見るかのように私に問いかける。成る程、また忘れられてるパターンか…と考えていると、シカマル君が「何言ってんすか」と言葉を続けた。

「この人ゲンマさんも知ってる人なんでしょ」
「は?知らねぇな。大体今日はシカマルとセナとウミのスリーマンセルとか言ってたのにウミがいねぇじゃねーか。帰還したっていう噂はガセかよ」
「はぁ?ウミさんってこの人ですよ?」
「…………え、お前ウミなの?」
「いいんですよ。気が付かれないのも慣れそうなんで」

はい、と拘束した2人の紐をゲンマ先輩に渡してその場を後にする。後ろでは「ちょっとまて」とか「シカマルお前」とか言う声と、面倒くさそうに対応する声が聞こえてきて溜息を吐いた。

「翡翠ウミ、ね…」

ただ、シカマル君とゲンマ先輩の側で小さくぽつりと嘆いた声の主には誰も気付かなかった。

2014.02.22

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