稀に優しいと調子が狂う

ねぇー、お母さん見てー!あのわんちゃんすごくかわいいー!
そうね。そんなに走ると転ぶわよ?うふふ

今日の任務退屈だったよなー、もっとこう俺が活躍できるような任務ないのかよー
まだ実力が伴っていないということですよ!文句言わない!
なんだよーエビス先生のケチ!

………、…?

ちょっと!手裏剣投げるの下手くそすぎるって!!危ないでしょ!!?
ご、ごめんごめん…そんな怒らないでよ…

あら、こんな所で何をしているんですか?
あっ!!ハヤさんこんな所で何やってるんですか!?
キバさん…質問してるのは私なんですけど…

新薬の方はどうだ?
まだまだ未完成ですね…また最初から作り直してみます
そうか…シズネ、後は任せたぞ。私は火影室に戻る
はい

「あっれー、もう始めちゃったんですか?」
「いのさん、マトイさんに何か用でもありました?」
「いえ、後で大丈夫ですよー」

私は片手にお茶を持ってマトイのいる場所へと足を運んだが、もうそこでは"精密聴の術"が行われていた。四方で結界を張っている暗部達の中心では胡座を掻いて黙祷するかのように微動だにしないマトイがいる。彼女は情報部に毎月1回姿を見せて木の葉の為に力を使っていた。

「マトイも大変よねー。あんなに面倒くさがりでやる気もない癖に…木の葉の忍はやる気のない面倒くさがりの方が昇級早いんじゃないのー?」

幼馴染で腐れ縁のダルダル男子を頭に思い浮かべながら溜息を吐いた。まあでもアイツは頭いいからねー、上手いこと世の中渡ってると思うわよ。ふん。若干羨ましくも思いながら机の上にお茶の入った湯呑みを置いて薬学の書いてある本を手に取り椅子に座った。

最近サクラもすごいのよねー。第四次忍界大戦で華開いた感じっていうの?昔は同じ場所に立ってたのにと思いながらページを捲る。精密なチャクラコントロールと薬草調合比率、大量の薬草と毒草の名前、効果と対策…これがデコりんの頭には全部入ってるわけで。半端ないわよこんなの!負けたくないから頑張るけどさ!

「ねー暗部さーん。マトイって今日も夜までかかっちゃいます?」
「いつもの感じであればかかると思いますよ」
「ですよねえ…」

同期も里の復興に忙しくて中々話もできないし、久しぶりにお茶飲みながら会話でもしたかったんだけどなー。‥なんて思うのは私が平和ボケしすぎてるのかな。ネジさんは奇跡的に生還することができ、父さんは亡くなってしまったけど…戦争中同期は誰も欠けなかった。マトイもシカマルの幼なじみのコトメも戦争に参加せずに里に残っていたし、それはそれで心配だったのは確かだけど皆無事だった。そういえばこの間の飲み会、マトイもコトメもいなかったもんなー。だから話ししたいとか思うのかも。

「あー…なんか私にできることはないのかなー」
「なーに言ってるんですかいのさんー」
「へ?」

聞こえるはずのない声に薬学書から顔を上げると、面倒くさそうな顔をしたマトイがこちらを見ていた。いやいやいや…

「ちょっ…マトイさん、勝手にこちらの術まで解かないでください!」
「やー、あまりにも平和な木の葉の話し声ばっかで退屈になっちゃってー」
「早すぎ!綱手様に怒られちゃうわよー!?」
「ちゃんと仕事はしますからー。いのさんこっちきてくださいこっちー」
「はあ?」

暗部が驚いた声を上げる中、結界の中においでおいでと後ろ手に招くマトイに変な声が出た。いや私そっち行って何得なの?一応勉強中なんだけど。とは思いつつも確かに話しはしたかった所だ。なんか無駄に寂しいとか感じてたし。

「早く早くー」

さすがに結界内までは足を運べなくてすぐ側で腰を降ろす。両隣にいる暗部にすみませんとぺこぺこ頭を下げると、中に入ればいいのにと零すマトイに困惑の色を浮かべた。

「な、なんなのよアンタ…そこまで行けるわけないでしょー?バカじゃないの?」
「いのさんを元気付けようと思っただけなのにー」
「…独り言聞いてたのね」
「そりゃこんな直ぐ側にいたら普通に聞こえますよー」
「あー、邪魔して悪かったわね…気にしないでいいから続けなさいよ、黙って本読んでるから」
「いのさんは自分にできることやってますよー。いのいち上忍の引き継ぎ必死にやってんのも皆知ってるしー、情報部の仕事の合間にそうやって医療の勉強もしてるしー。それでいーんじゃないですかー?」
「…」
「中途半端な奴なんて誰も思ってないですよー」

何よ、私より年下で人のことに興味ない癖にさ‥。胡座を掻いて私に背を向けたまま喋るマトイにむっと頬を膨らませたが、どうやらその言葉にほっと心は満たされたらしい。

「マトイさん、お願いしますよ。俺達まで五代目に怒られてしまいますから…」
「分かってますってー。じゃ、また後でねーいのさん」

まぁ、ありがとう、ってね。暗部に急かされて印を組み直したマトイを見ながら、私は心の中で告げた。

2014.04.22

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