遮断された声の意味

おとーさん!みて!!ぼくのにんじゅつ!!
うわっ!こら、危ないだろうが!こっちに向けるなー!

………ぐ……く……、
は………、……?
……、…………

ねえ、見た?甘栗甘の新作栗団子!
見た見た!寄り道しちゃおうよ!
言うと思ったー、行こ行こ!

………、……
………の………ぞく……、…かい……

…精密聴が雑音に邪魔されてる…。もう何時間が経ったのだろうか。すうっと瞼を持ち上げると、上にかかった時計の針が10を差していた。額や首元に汗が滲んでいるのが分かる。チャクラを大量に消耗してしまったらしく、ぐらりと体が床に倒れていく感覚がした。

「マトイさん!!」

暗部の1人が咄嗟に体を支えてくれたが、どうにも今日は真面目にやり過ぎたようだ。確かに聞こえた妙な声と、精密聴を掻き消すような雑音…恐らく声を聞かれないようになんらかの術がかかっていたのだろう。そんなの怪しすぎるでしょ。完全に黒だ。

「あー…ちょっと頑張り過ぎたー…」
「マトイさんがこんなに長く術を使うのは珍しいですね。何か気になることでも?」
「んー…声が、聞こえない人が…」
「精密聴の術が効いてないと…?」
「おい、すぐ5代目に報告だ」
「待って、…私が、報告するから…」
「…何か思い当たることでも?」
「全く聞こえなかったわけじゃないから…」
「あ、やっと終わっ……マトイ!?」

ぼんやりとする頭の隅でいのさんが声を荒げるのが聞こえた。くそーめんどくさいことしちゃったなー、明日絶対動けないじゃんかー。カカシ上忍のチャクラ切れを馬鹿にしてる場合じゃないよこりゃ…それにしてもなんとか聴こえた少数の文字の羅列が気になる。ぐ、く…ぞく、かい…?ぐって、そんなに言葉数ないよねー。ぞく、だったら、"族"?家族、続々、一族…かい、貝、階段、2階…あーダメだ、フェードアウトするわこれ……

「とりあえずマトイさんを急いで病院に」
「ねえ!ちょっとマトイどうしたの!?」
「恐らくチャクラ切れです」
「は、チャ、クラ切れ?」

まるでカカシ上忍を見るかのようないのさんの顔が見えた所で、あたしの意識は完全にシャットダウンした。え、嘘、あたしカカシ上忍とチャクラ切れの部分だけ同レベルですか?それはないよいのさーん!!








「はっ」

なんてベタな目覚めだろうか。ばちっと目が覚めると見事なまでに白の壁が映る。病院特有のこのニオイはどうも好きになれない…っていうか、やっぱ運ばれたか。ドンマイ自分、ごめんカカシ上忍今まで小馬鹿にしてきて。チャクラ切れって辛いね。横になったまま欠伸をしていると、ふと隣に気配がした。いのさんかな…昨日は吃驚させてどうもすみませーん。…という言葉が出ることはなかった。

「ぬわあああああ!!?」
「…大丈夫か」

ちょっと待て!!
激しくツッコミを入れたあたしの目に入ったのは、ここに居るはずのないっていうかここに居たらダメでしょレベルの砂隠れのお偉いさん。いやもうだからおかしいでしょ!!

「なんっで我愛羅様がここに!!ていうか木の葉に来る頻度高くない!?ですか!?」
「火影からマトイが倒れたと聞いてな」
「綱手サンなにしてんの!!ていうか理由が簡単すぎません!?」
「俺にとっては大事なことなんだ。しかし思ったより元気なようで安心した…」
「………」

言葉が出ないとはこういうことなのか…白目を向きそうになりつつも頑張って愛想笑いを浮かべると、我愛羅様の顔が本当にほんの少しだけ緩んだ。‥あれ、この人意外に人間っぽい顔するのね。痛い頭を支えつつ目を丸くさせると、またその後すぐに慌てて愛想笑い浮かべた。

2014.04.29

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