深く沈んだトコロのココロ

「なんだ?随分早い休憩だったな」
「野暮用が出来てしまってー」

1つのランプに照らされているだけのそこには、ぐったりとしている男とイビキ特上忍の姿がある。ポケットに手を突っ込んだままのイビキ特上忍が眉間に皺を寄せた。やめてー、その顔とっても怖ーいからー。

「野暮用ってのはなんだ?」
「いつもの耳鳴り任務ですよー、さっきそこでいのさんに会ってですねぇ、情報部に来いって言われたんですー」
「ああ…もうそんなに日が経ったのか」
「そんなわけで早く終わらせにきましたー」
「悪いがまだ気を失ったままだ」
「えー?イビキ特上忍、いつもみたいに無理矢理起こしてくださいよー」
「そのつもりだったがすぐにお前が入ってきたんだよ」

ポケットから右手を出してぐいっと男の髪を掴んだイビキ特上忍は、耳から血を流す様を視界に入れて呆れるように溜息を零した。なんで溜息なんて吐いてるんだ、その男が場所を吐かないのが悪いんでしょーが。むっとしながら腕を組むと、乱暴に掴んでいた髪を離してあたしに向き直った。

「今日の所は牢獄へ入れておく。お前は明日またここへ来い」
「え?いーんですか?」
「珍しく考え事で頭が一杯のようだからな…誤って男を殺しかねん。それは困るんだ」
「だったら続きはイビキ特上忍がしてくださいよー」
「マトイ、お前は今現在俺の右腕として拷問部にいる。忍としてのセンスも実力も、面倒くさがりなのは置いといて抜群にあるくノ一だがそんなお前にもまだまだ足りない物がある」
「はぁ」
「自覚はあるだろう。それは…経験だ。拷問部は人を苦しめる場所だ、お前は他の奴に比べたら免疫もあるみたいだが、まだどこか躊躇しているような部分がある。さっき言ったよな、男を殺しかねんと」
「あー、言われましたね」
「どこかで苦しむ姿を見たくないと思っているから無意識に力を強めているんだよ」
「そうですかねー」
「まあ…そんな話しはいい。とにかく俺はこの男に関して手を出さないからな。とっとと情報部に行け」

そのままあたしを視界から外したイビキ特上忍は、鉄格子の椅子から意識を失っている男の紐を解き担ぎ上げた。

拷問部に配属してからあたしは幾度も人を苦しめてきた。最初は拷問を受ける人間の顔を見るのが耐えられなくて、殺してしまった方がよっぽど楽だと何度も考え、何度も吐いた覚えがある。…けど、それにももう慣れてしまっているのか、術で拷問をしていてもその苦しむ顔を見ながら笑えるようになってしまった。なのに、あたしが人の苦しむ姿を見たくないから殺そうとしてるように見える?それって可笑しい話しじゃないー?イビキ特上忍ってば何年あたしのこと見てるわけ?とは聞けなかったが、軽く鼻で笑った。

「…昔とは随分変わったがな」
「あたしも自分でそー思いますよー。では情報部に行ってきますねー」

ひらひらと後ろ手に手を振ると静かに扉を開けた。明日もあの男の拷問がある。なんでそこまでしてまで居場所を吐かないのかねー。仕事を増やさないでほしいのにと頭を掻くと、扉を閉めて情報部を目指した。








「失礼しまーす」

情報部の扉を潜ると、待っていましたとばかりに火影直属である暗部のメンバーがそろっていた。顔見えないから怖いっつーの。あたしが"精密聴(せいみつちょう)"を使っている間、この暗部の人達が結界を張ってあたしを守ってくれるのだ。木の葉の里内だしそこまでしなくていいって言ったけど聞き届けてもらえなかった。そんなにあたしが大事なんですねーと綱手サンにしみじみと伝えたが、半分はサボりの監視でもあるそうで。酷いよね。

「あれー?早かったのねー、マトイ」
「イビキ特上忍が今日はいいから情報部行けってー。じゃー暗部の皆さんお願いしますねー」
「…始めるぞ」

ひょっこりと情報部の資料室から顔を出してすぐ奥に消えていったいのさんの姿を見送ると、すぐに準備に取り掛かる。隅にある3畳ほどのスペースに腰を降ろすと隊長さんが他のメンバーに声をかけていて、四方に暗部が結界を張ったのを確認してあたしも印を組んだ。あーあ。"精密聴"で明日はほぼ死亡状態だろーし…大変な一日になりそうだなー…なんて考えながらぼんやりと天井を見上げると、静かに目を瞑って大きく息を吐いた。

「………秘術・精密聴の術」

2014.04.11

prev || list || next