煽られるのは不安

「あ……ハヤ、ちゃん…」

日向宗家の玄関前につくと、久しぶりのヒナちゃんの姿があって思わず駆け寄った。ぱっとネジの手を離した瞬間に少しだけ寂しそうな顔をしたネジが居たが、ネジと同様にヒナちゃんも私の大切な人。にこ、と笑ってヒナちゃんの手を掴むと、何やら曇らせた顔から焦るように笑顔を浮かべていた。

「どうかしましたか?」
「な…なんでもないの!ハヤちゃん、なんか凄く久しぶりな気がして……ネジ兄さん、退院おめでとう…!」
「ありがとうございます。ヒナタ様」

話題を無理矢理変えるようにネジへと視線を移したヒナちゃんに疑問を感じて口を開いた瞬間、ガラガラと玄関の扉が開かれて日向一族の一人であるコウさんが出迎えてくれた。

「ヒナタ様、ネジ、、…ハヤちゃんも一緒でしたか。お帰りなさい」
「っ…」
「あ…っ、いや、別に俺は一緒だからどうとかって言うわけじゃなくて…!」
「…いいんです。ですが私がいると今日の食事会が気まずいのでは?やはり私は出ない方がー」

一瞬私を見て口籠った後、慌てふためくように顔の前で両手をぶんぶんと振るコウさんに眉間に皺を寄せつつ首を傾げる。先程みたいにあからさまな態度取られた後にそんなこと言われても、全く説得力ありませんよと溜息を吐くと、ヒナちゃんがやんわりと私の手を握り返してきた。

「ハヤちゃん違うよ!コウはね、ずっとハヤちゃんとお話ししてみたかったんだって…!」
「お話し?」
「ちょ、ヒナタ様!!」
「…コウ」
「いや、だから!そんな深い意味はなくてだなネジ!俺は1人の人としてハヤちゃんと話してみたかっただけで、!!」
「…」

目の前で繰り広げられる会話に現実味が感じられなくて目を丸くすると、あわあわとするコウさんとぱちっと目が合った。そういえばヒアシ様が一族が私と関わらないように言ってたって。それが本当なのかどうなのかなんて俄かには信じ切れていなかったが、コウさんが苦笑いしながら慌てて家の中へ招き入れる姿を見て、ほんの少し頬が緩んだ気がした。

「ヒナちゃん、その…ヒナちゃんも、私のこと聞いたんですか…?」
「あ…うん、そうなの…えっと…なんて言ったらいい、のかな……ごめんね…」
「どうして謝るんですか?ヒナちゃんは何も…」
「だって…もっと印のことも早くに知っていれば、ハヤちゃんはこんなに長い間孤独だって思う必要なかった…」
「ヒナちゃんが謝る必要も、日向の皆様が私に謝る必要もありません。私は日向に護られていただけでした…むしろ謝るのであれば私の方です。それに…ヒナちゃんとネジがいてくれましたから」

ふわりと笑みを返すと、急激な速さでヒナちゃんの頬に赤みが増した。そして何故かヒナちゃんの後ろで手招きをしていたコウさんまでもが顔を赤く染めている。待ってください、私貴方には何もしていませんが。

「ネジ、少しいいか」

後ろから威厳のある声が響いて振り向くと、家の周りを散歩していたのかつっかけを履いたヒアシ様が腕を組んで立っている。私を見て一瞬優しく笑うも、ネジが歩み寄ったことで顔を引き締めた。

「体調は…良さそうだな。無事退院できて何よりだ」
「御心配をおかけしました」
「退院したばかりだがお前にはすぐ任務が入るだろう。病み上がりに無理だけはするんじゃないぞ」
「はい」
「コウ、ヒナタとハヤを先に中へ。私はネジに話がある」
「分かりました」

ネジを残し促されるままに家の中へと踏み入れた私は、何か真剣な顔を浮かべたヒアシ様に引っかかりを覚え背中を向けたネジをちらりと盗み見た。








「…どうされましたか?」
「いや。実は私から話すことではないのだが…火影から通達を頼まれていてな」
「火影様から、ですか?」

家のすぐ側にある庭へと移動したヒアシは、周りの様子を伺いながら慎重に話を切り出した。

「…封印の器のことはハヤから聞いたか?」
「はい。ハヤは四神獣の1つである白虎を封印していると…」
「話が早く済みそうだな。今から3つ程話す、よく聞け」
「はい」
「まず1つ目…その事実は他言無用だ。お前になら話していいと私が言った。お前達の気持ちは…さすがに私も見てれば分かることだったからな」
「な…、?!」

驚くと同時にずさっと後ろへ下がったネジに、ヒアシは薄っすらと苦笑いを零しつつ「真面目に聞きなさい」とネジを制した。

「そして2つ目。封印の器のことだが…ハヤだけではない、他にも封印の器が居る」
「……ハヤだけではない…?それをハヤは知っているんでしょうか」
「知っているかは分からないが、そのことに関してはまだ私から話していない。実は…私がハヤに真実を告げようと決めた理由がある」
「?」
「それぞれの器達が自分が何者なのかを知り始めている。そして…器がすでに2人襲われている…理由はこの2つだ」
「襲…って…どうして…!」
「現段階では何も分かっていない。ハヤの身にはまだ何も起きていないようだが…何があってもおかしくないと考えていい。そこで火影からの通達…3つ目。ネジ、お前にハヤの護衛を頼みたいそうだ」
「…」
「やってくれるな?」
「それは、もちろんですが…」
「何れ火影から直々に話しはされるだろうが、とにかく頼むぞ」
「…何故、ハヤが……」

ヒアシはぽん、とネジの肩に手を置くとそのまま玄関先へと向かう為に背中を向けた。ぼんやりとその場に立ち尽くすネジの脳内では、ハヤに関する飲み込めない事実が駆け巡っていた。

2014.09.12

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