何があったとしても、味方。

「退院おめでとう!」

午後七時過ぎの木の葉病院前、綱手様にばん!と背中を叩かれ思わずうっと顔を顰めると、横に立っていたハヤが眉尻を下げていた。一応怪我人だったんだが…と思いつつも溜息を飲み込んで軽く頭を下げてお礼を告げる。そして今日が退院だとついさっき聞いたらしいテンテンがこの場にわざわざ来てくれている訳だが、俺とハヤを見比べてはずーっとニヤニヤしている。リーが一緒ではないだけまだいいが…不快にも程がある。

「退院はしたが無理はするなよ」
「はい」
「明後日までこの部屋は開けておきますので、荷物はその間に取りにきてくださいね」
「ありがとうございます、シズネさん」
「ネジ、そろそろ行きましょう」
「ああ」
「それと、解放されたからってあんまりハヤと仲良くしすぎるなよ?激しいのは特にな〜」
「「綱手様ッ!/ 綱手さんっ!」」
「熟年夫婦かあんたら」

くるりと後ろを向いてはっはっはーとひらひら手を振り去っていく綱手様と、それについていくシズネさんを半ば諦め目線で追う。テンテンの軽いツッコミが聞こえてきた所でハッと我に返ると、隣で同じような表情を浮かべていたハヤと目が合って思わずお互いに目線を反らせた。

「もー付き合ってる癖になんか焦れったいのよあんた達!堂々としてなさいよ、別に2人がどう仲良くしてようが別段なーんもおかしくないでしょ。っていうか何、2人っきりの時もそんな感じなの?それはネジが悪い!」
「いやそういうわけじゃ…」
「ななななにも言うべきことはないではないですか!!大体お、お付き合いしていることは内密にと先日言いましたのに結局……!ほ、ほらもう帰らないとヒアシ様もお料理も退院祝いで待ち兼ねておりますしヒナちゃんも!!」
「料理が退院祝いで待ち兼ねてるってなんだ…」
「あ…と、とにかくテンテンさんまた!!」

ぐいぐいと腕を引っ張ってくるハヤの顔は俺がキスを迫る時以上に赤い。ふ、と苦笑いを零すと「何笑ってるんですか」と小さく告げる声に頬が緩んだ。

「あー見てらんない見てらんない。むず痒い、というか痒い!もういっそラブラブしてくれた方が潔い!」

…等と背中越しでテンテンの大きな独り言が聞こえてくる。少し俯くハヤの顔はずーっと赤いままで、俺は思わず吹き出しそうになった口を抑えた。








「全く……あいつは俺達で遊んでるな」
「…」
「…まだ照れてるのか?」
「放っておいてください…」

ネジの腕をがっしりと掴んだまま、ほんの少し距離を開けて歩く。今日はネジが退院するということで、宗家で退院祝いの食事会が開かれるそうだ。もちろん今までの私だったら、日向一族が揃う食事会なんかに、例えネジの退院祝いだろうと行かなかっただろう。だが、今回はわざわざヒアシ様から「一緒に来なさい」と促されていた。正直気乗りはしないが折角機会を作っていただいたこともあり、無下にすることができなかったのだ。‥誰がいらっしゃるんでしょうか…コウさん、はヒナちゃんの紹介で一度ご挨拶をしたことがありますが…まあ、あまりいい雰囲気ではありませんでしたけど…

「…不安なのか」
「!」

ぼんやり考えているとネジの声で我に返り慌てて顔を上げた。日向の中に私が1人という状況は今までを思い返してもなかったことで、そんなことを考えているのがばれていたのかと思うと、私は軽く目を伏せた。

「…ヒアシ様が大丈夫だと考えてお前も呼んだんだろう、それにヒナタ様も…俺もいる」
「…分かっています」

はあ、と息を吐くとずるりとネジの腕から手が離れていく。それに気付いたネジが重力に従って落ちていく私の掌をぱしりと掴んだ。

「え」
「俺も…じゃないか」
「……?」
「…俺がいる。だからそんな心配そうな顔をするな」

取られた掌は優しく絡まれて暖かい熱に包まれる。そして何が起こったのか理解するよりも早く、ネジはその手を繋いだまま目の前を歩き出した。

2014.08.20

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