異名"五月雨"

「いい朝ですね。こんな朝には、ヒナちゃんと修業して1日を過ごしたいものですが…何故貴方と同じ任務になってしまったんでしょうか…最悪の1日になりそうで溜息しか出ません…」
「お前な…そういうことは心の中で止めとけよ…」
「2日連続で会えるとは…俺とハヤは気が合うな!」

朝5時。いつものように部屋から出た私は第2演習場でいつもの日課(修行)をこなしそのまま上忍待機室へ向かうと、特上である不知火ゲンマさんから呼び出しをくらって追跡任務に加わることになった。別に任務だからいい。いいとは言えなんの嫌がらせなのかマイトさんが任務のメンバーにいたのだ。呆れたような顔で千本をカチカチ鳴らしているゲンマさんは、男の人にしては珍しく私に媚びない人だったからまあいいとして(別にマイトさんも媚びているわけではないけど)…ちらりとマイトさんを見ると、私に向かってウインクを放っていて背筋がぞくっとした。

「お前等早く行くぞ。ったく…こんな面倒なメンツ連れて追跡とかできんのかよ…」
「失礼ですよ私に。煩いのはこの方だけです」
「今日こそハヤにかっこいい俺を見せられそうだ!」
「オイオイ…追跡任務だっつーの。戦闘なんて視野に入れてねーよ…」
「む、追跡任務でも何が起こるかわからんのだぞ?お前は甘い!」
「ゲンマさんもうこの方置いてさっさと行きましょう」
「お前等大概にしてくれ…」

げんなりしているゲンマさんはその足で里を出た。それに続いて私もマイトさんも駆け出す。今回の追跡任務は、抜忍を見つけてそのアジトを見つけること。最近増えてきた抜忍がどこから湧き出ているのかを調査するのだ。隣で意気揚々と駆けるこの人がいて大丈夫なのかはさておき、とにかく森を駆けた。

「ゲンマさん、抜忍については多少なりとも何か情報を掴んでいるのでしょうか?」
「いや、まだ抜忍を確実に捕獲するとこまでいってないらしい。捕縛しても変わり身だったり分身だったりでな…」
「1枚上手ということですね…」
「毎回見受けられている抜忍の強さも疎らだ。上忍レベルだったり中忍レベルだったり、下手すりゃ下忍レベルもいるんだとよ」
「下忍レベルの方がいるのにあしらわれるなんて…こちらも相当なめられていますね。というかこちらの忍の腕に不安が募ります」
「弱い奴がいれば強い奴もいる。向こうも任務のシステムと同じなんだよ。シカマルが言うにはどっか頭のいい奴が新しい組織か何かでも作ったんじゃねーのかっつー話だ。俺もそれはあながち間違いでもねぇと思ってる」
「だからアジトを探すってことだな。アジトが割れればそこが本拠地かもしれないということか」
「そーいうこと。だから下手に暴れてくれるなよ、ガイ」

ひゅんひゅんと木から木へ移動しながら、ゲンマさんの説明を受けて理解をした私は周りに気を張りながら抜忍の気配を探す。マイトさんに先に見つけられたんじゃあ「あっちだ!」と大声を出されてしまうのが関の山な気がする。

「ったく、見つけるのも大変だな…」
「…気配を探すよりあちら側から出てきてもらう方が早いかもしれませんね。ゲンマさん、マイトさん、私の半径1m以内から出ないでください」
「アレをやるのか?」
「察しが良いですね。見つけたらその気配がどこに向かったかを覚えておいてください」
「顔に似合わずやることがハデだな」
「ゲンマさんも攻撃をくらいたいなら私から離れていいですから」
「…はァ。まじで勘弁して…」

じりじりと二人が1m以内に入ったのを見て私は背中にある白い弓を手に取った。大きさは二寸伸(227cm)と自身の身長にしては大きい弓を扱い、敵を倒す。しかし、弓矢は持っていない。弓矢の代わりに空気を打つ。それが私の射る物だ。中仕掛けと空気を引っ張るようにぐぐ、と上に向けて弦にチャクラを練り込むと一気に打ち放った。

「…五月雨打ち」

私のチャクラを練りこんだそれは空気に伝わり鋭利な矢へと姿を変えた。そして物凄いスピードで色んな場所へと落ちていく。もちろん私のすぐ近くでもザクザクと地面に刺さっていく音はするが、半径1m以内には絶対に落ちてこない。私のチャクラに反応して矢から逸れてくれるのだ。

「ぐァッ…」

少し遠くで微かに悲鳴が聞こえる。その声にマイトさんが反応したがゲンマさんが待ったとばかりに肩を押さえつけた。

「ハヤの異名を忘れたのかよ…"五月雨"は何回か降るだろ、あんまり焦るな」
「…そうだったな」

五月雨。梅雨時の雨のように途切れながらもだらだらと長く物事が続くこと。この技と私についた異名の名前。バラバラな場所で、ランダムに矢が降り注ぐ。焦ってその場から退散しようと試みる忍の呻き声が聞こえてきた所で攻撃も終わりを迎え、私達は近くまで足を走らせた。

2014.03.02

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