私の恋は報われないでしょう

「今日は楽しかったです!また近いうちにお茶しましょうね、ヒナちゃん」
「ううん、こちらこそ付き合ってくれてありがとうハヤちゃん…!」
「いいえ、修業も素敵ですがヒナちゃんとのお喋りはもっと素敵ですから。次回はナルトさんとのラーメンデートのことでもお話しましょう」
「でっ…!!…デート…」

マイトさんがいなくなった甘栗甘で約3時間程滞在した後、少し日が落ちてきた空を見て帰宅することにした私とヒナちゃんは日向の自宅へと向かっていた。ヒナちゃんはずっと「ナルト君がね、ナルト君は…」という調子で終始頬を染めていたのを思い出して私も頬を染める。

最近ナルトさんと行動を共にすることが多くなったヒナちゃんに拍手を送りたい(むしろ今日送ったけど)。昔はもっと引っ込み思案で、彼の背中を見ていただけだったヒナちゃんが、なんとか彼の背中を追いかけようと日々頑張っているのだ。まあ、ネジに泣く泣く止められたりすることもあり…私もナルトさんにヒナちゃん取られているようで癪だけど。

「明日はヒナちゃん休暇ですよね。一緒に修業したかったのですが私は明日から任務が詰まってますので……残念です…」
「そっか…じゃあまたネジ兄さんには会えないかな…」
「いいえ。今日修業に時間を使った分明日は早めに任務を終わらせてお見舞いに行くつもりです。だからヒナちゃんはお休みしてて下さい」
「え、大丈夫…?あ、でも、ネジ兄さん喜ぶと思うけど…」
「大丈夫ですよ。それに私ヒナちゃん大好きですけれど、ネジも大好きですし、2人の心配をしているだけですから」
「そ、そっか…!」

嬉しそうに顔を綻ばせるヒナちゃんに私も笑顔を作った。昔は、大、大、大嫌いだったネジ。もちろんあの頃はヒナちゃんに冷たかったからというのもあるけど「自分の運命は変えられない」「お前は一生日向のお荷物になる」と言われたことが私のカンに触ったというのが1番の理由で、それからというものは、ネジが初めて中忍試験を受ける前後までは顔を合わせる度に歪みあっていた。しかしそれも、ネジが中忍になってからは少しずつもつれた糸が解けるように私とネジの仲は改善されていったのだ(半分はヒナちゃんとネジの仲が修復したからだけど)。

私はネジのこともネジの抱える闇も、何も知らなかっただけ。理解すればするほど、ネジは真面目でお堅くて、少し照れ屋で笑うと少し可愛い男で。いつの間にか私はネジが好きになっていた。もちろんそれは私とヒナちゃんだけの秘密で、ヒナちゃんはささやかに応援してくれていたりするのだ。








門の前近くまで来ると、ピタリと止まったヒナちゃんが心配そうに私の目を見ていた。いつも言われる言葉が頭をよぎる。けど、何度聞いてもヒナちゃんが私を思うからこその言葉であり、鬱陶しく感じることもない。私は立ち止まってヒナちゃんの様子を伺った。

「…ハヤちゃん、今日はどうするの?」
「どうもしませんよ。いつものように部屋に戻ります」
「ご飯くらい、一緒に食べれないかな…」
「いいえ。私は日向家の1人ではありませんしそこは境界線を引かせて下さい。他の方はヒナちゃんと違って、息が詰まりそうになりますから…」
「ハヤちゃん…」
「ごめんなさい、ヒナちゃん…貴方には気をかけてもらってばかりで…」
「そんなこと…!!でも、そっか…じゃあまたお部屋に遊びにいく、ね」
「あまり私に気を使わないでください、ヒナちゃん。私はヒナちゃんがいてくれるだけで幸せですから」
「私も、ハヤちゃんがいてくれて、幸せだよ。きっとネジ兄さんも…」

日向家の門に着いてふわっとヒナちゃんの頬に手を滑らせ撫でると名残惜しむようにそっと放した。私の部屋とヒナちゃんの部屋は廊下をはさんだ外の広場の向かい側にある。私の部屋にある廊下には特に何もなくただの突き当たりだけしかないので一族の人間が通ることもない。‥日向一族であるネジに恋心を抱くなんて、私も馬鹿だ。

日向家は木の葉でも名門中の名門で白眼という血継限界を持った一族。血を絶やすことのないように一族同士で結ばれるということはよくある話で。特にネジは、日向きっての天才児と言われる人物。…私と結ばれることなんてきっと一生ない。もしあったとしても一族の誰にもいい顔はされないし、大いに大反対されることは目に見えてる。私はただの居候。瞳術を癒す為だけに許された存在。灰色の右眼は、日向に向けて私の持つ血継限界を発動させないように施された呪印。

今はもうネジに呪印はないですが…私は昔のネジと同じですね。カラカラと襖を開けると冷ややかな温度が体を包み込む。食事を取るために設置された台所へと移動しながら、私は未来のない未来を想像して唇を噛んだ。

2014.02.26

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