噂の毒吐き美人

「ナルトさんと喋ることができたんですね」
「う、うん…でね、今度一緒にラーメン食べに行こうって…言われて、」
「まあ!それは素晴らしいです!デートですね!」
「でっ、デート…!!?」
「ふふ、ナルトさんといるヒナちゃんはさぞかし可愛いでしょうね…ああ、その時の写真を撮りにいきたいくらいです!でもそんな可愛いヒナちゃんを独り占めなんてナルトさんも悪いお人…」

どこか遠くを見ながらふわっと笑うハヤちゃんを見ながらぜんざいを口に運ぶ。ハヤちゃんは私より1個上だけど、昔から仲良くさせてもらってきたからか年上の人にしては珍しく敬語は使っていなかった。血継限界のある私の一族が全く別の一族を迎え入れていることには今だに驚くけど、それよりもお姉さんがいるような感覚が素直に嬉しかった。

「お、ヒナタ…と、ハヤさんじゃないですか!め、珍しいな!2人で甘栗甘なんて!」
「…別に2人でいることは珍しくはないだろう、キバ。何故ならハヤさんとヒナタは同じ敷地内で生活を共にしているからだ」
「俺は2人で甘栗甘にいることが珍しいっつってんだよ!」
「あ、キバ君、シノ君…」
「あら、キバさんも中々に珍しいのではないですか?甘栗甘に男2人、だなんて」
「や、ひっさしぶりに団子食いたくなって、よ…な、赤丸」
「ワ、ワン…?」
「キバ、赤丸が困っている。大体お前が入ろうと言ったんだぞ。何故ならお前はヒナタとハヤさんがここにくるのを知っ「だああ!!うるせえ!!」…最後まで言わせてもくれないのか」

兵糧丸を食べた後の赤丸よろしく、キバ君は顔を真っ赤に染めてシノ君に掴みかかっていた。ハヤちゃんは里でも有名な美人で、その美貌から、他里にまで名前が轟いているらしいということをキバ君から聞いたことがある。内向きがかった黒髪の綺麗なロングヘアーも、ふわふわの美しすぎる笑顔も女の子なら誰もが羨むスタイルも、もちろん忍としての実力も申し分ない。ただ、ハヤちゃんはその笑顔には似つかない程に、強烈な毒を吐くこともあるんだけど…特に「あの人」には…。

眉を八の字に下げて苦笑いをしていると、ガヤガヤとした賑やかな声がお店の外から聞こえてきて、あっと声を上げた。ちらっとハヤちゃんを見ると、ふわふわの笑顔の下から「またですか」と呆れたような面倒なような黒いオーラのようなものが見え隠れしていることに気付き、慌てて声をかけた。

「あ、お店、出る?」
「いいえ。折角のヒナちゃんとの時間ですから蹴散らすことにします」
「それ、だ、大丈夫かな、ハヤちゃん…」
「ハヤ!探したぞ!今日こそは俺と勝負をしてくれるな!!」

騒々しく現れたある意味里でも有名なその人の姿は太い眉毛とおかっぱ頭に緑の一張羅。腰に手を当てて店頭で大声を出すのはやはりというか、この人しかいない。初めてハヤちゃんと会った時からずっとこの調子のネジ兄さんの担当上忍マイト・ガイ先生は、ハヤちゃんに酷く惚れ込んでいるらしい。美貌さながら、強さにも。

「俺と共に演習場へ愛の逃避行といこうじゃないか!」
「私は今ヒナちゃんと愛を育んでいますのでまたの機会にしてくださいます?マイトさん」
「ガイと呼んでくれといつも言っているだろう?照れなくてもいいぞ」
「名前で呼ぶ程仲の良い関係ではないと思っておりますので。キバさん、シノさん、よければそちらの緑の方を締め上げてきてもらえないでしょうか?私が締め上げてしまうと加減ができなさそうなので」

ふわふわの笑顔を浮かべた天使のような顔つきとは裏腹に言っている言葉は悪魔のようだと思っているのは恐らく私だけじゃないはず。しかしその笑顔にやられたキバ君とやられかけているシノ君はガイ先生の両腕を掴むと店頭から引き摺り出していた。

「何をする!俺の恋路を邪魔する奴は容赦せんぞ!」
「だーかーら!ハヤさんが困ってんですよ!」
「…そろそろ諦めた方がいい。何故ならハヤさんは貴方にこれっぽっちも興味を持ってないからだ」
「諦めはしないぞ!ハヤとの素晴らしい青春を一生一緒に過ごすのはこの気高き……!」

ウオオオ!と喚き散らす声を耳に入れながら何事もなかったようにハヤちゃんはお茶を啜ると残ったフルーツ大福を持ち上げて私の口元にやんわりと押し当てた。

「やっといなくなりましたね。すみません、私のせいで…半分個、しましょう?ヒナちゃん」
「ふ、ふう!」
「うふふ、可愛い」

女の私でもドキドキしちゃうよ、ハヤちゃん‥!ぱくりと大福を齧ると、苺、バナナ、キウイと餡の味が口の中で広がる。美味しい!と笑顔を作ると今度はハヤちゃんがあーんと口を開けた。

「私にもくださいな」
「え、あ、うん…!!」
「…何本格的にデートみたいなことやってるんスか…」

後ろから面倒くさそうに聞こえてきた声にくるりと振り向くとそこには書類を持って気だるそうに立つシカマル君がいた。

「あら、シカマルさんみたいな賢い方にはこの状況がよく分かっているようで嬉しいです。邪魔しないでくださいね」
「…めんどくせー」
「シカマル君もお団子食べにきたの?」
「いや、俺は買いにきただけだ。ちょうど五代目の所に客が来ててな。どこぞの砂の使者さんがここのみたらしを食べたいから買ってこいって言うもんで、仕方なく」

頭を掻きながら面倒くさそうに答えるシカマル君だったけど、ハヤちゃんの顔をちらりと見た後頬を赤く染めて右手で口元を隠していた。

2014.02.22

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