日向在住早○年

目の前に広がる広大な敷地の真ん中には小さな的が3つある。その的のど真ん中に矢を射って、後ろから小さく拍手を送ってくる大事な大事な妹みたいな少女へくるりと振り向いた。

「あ、邪魔しちゃった、かな…」
「いいえ。お帰りなさいヒナちゃん」
「うん、ただいま、ハヤちゃん…!」

持っていた白い弓を壁に立て掛けると、腕に巻いていた包帯をしゅるりと外す。私、白魚ハヤは日向一族の敷地内にある部屋を借りて生活している上忍のくノ一である。日向一族の敷地を借りて生活している理由は説明すると長くなるけど、簡単に言うと私の能力が日向に都合がよかったからだ。元々私は木の葉の住民でもなく親もおらず、3代目が引き取り手に困っていたらしい。そんな私を引き取ったのが日向宗家のヒアシ様だった。

「任務帰りにネジの所へ寄ってらっしゃいました?」
「えっ…!な、なんで、」
「薬品の匂いがします。ヒナちゃん中々休み取れないんですから…1日くらいは行かなくても大丈夫ですよ」
「でも、でも、ハヤちゃんの方が任務いっぱいで忙しいし、ネジ兄さんまだ手助けも必要だし…」
「ヒナちゃんが倒れてしまったらそれこそ心配ですから。ね?」

私が笑うと、ヒナちゃんの顔がほんのり赤くなってすごく可愛く笑ってくれる。ヒナちゃん‥日向ヒナタは私の癒しと言っても過言ではない。取った包帯をまとめて小さな巾着に放り込むと矢場(弓矢の練習場)近くにある自分の部屋へと歩き出した。

「あ、ハヤちゃん、この後時間あるかな」
「どうかしましたか?」
「最近忙しそうだったし…あの、お話したいなって…」
「そういえば中々ゆっくり話す暇もなかったですね……後でお茶でもしに行きましょうか。では着替えたらヒナちゃんのお部屋に迎えに行きますね」
「うん、じゃあ、待ってるね」

控えめにひらひらと手を振るヒナちゃんに頬を緩ませると、少し長い廊下を歩き自分の部屋の襖を開けた。部屋にあるのは片付けられた布団と、大きめの机が1つ、座布団が2つ。押し入れには服の入ったタンスがある。1人には少し広いこの部屋は、ヒアシ様が用意してくれたものだ。

ネジは第4次世界大戦で瀕死の重症を負い、一度は心停止になりもうダメだと思われたが、医療班や綱手様の懸命な努力により一命を取り留め現在木の葉病院に入院中だ。それにしても、あの時は泣きすぎて大変だったと今更ながら思う。白いノースリーブのタートルネックを取り出し黒のショートパンツを履くと、髪を1つに束ねていた留め具を外す。ホルスターだけ太腿に付けて、着ていた忍服をハンガーに掛けると、ヒナちゃんの部屋へと向かった。








「久しぶりですね、甘栗甘」
「うん、そうだね!ハヤちゃん何食べる?」
「私はフルーツ大福にしようかと思っているんですが…ヒナちゃんは?」
「ぜんざい、かなぁ…」
「ふふ、ヒナちゃんは本当にぜんざいが好きですね」
「ハヤちゃんも甘栗甘来たらフルーツ大福だよね」

ヒナちゃんを迎えに行った後、お茶をする場所に選んだ甘味処、甘栗甘の暖簾を潜る。置いてあったメニュー表を見ながら、何を食べようか悩む間もないまま頼む物を側にいた店員さんに伝えてお茶を啜った。さっきから頬が緩んでいる私は、久しぶりのヒナちゃんとのお茶会にかなり浮かれているらしい。日向宗家に引き取られたとはいえ、私はヒナちゃん以外の人と仲が良いとは言えないだろう。ハナビさんは私とあまり関わりたがらないし、ヒアシ様とも事務的な話ししかしたことがない。そんな中で私を心配してくれたり、気にかけてくれたりしたのはヒナちゃんだけだった。私はずっと1人だったからその気持ちだけがとにかく嬉しくて、そこからずっとヒナちゃんを大切に大切に守ってきたつもりだ。

「ネジの調子はどうでしたか?」
「もうすぐ仮退院できるって言ってたからだいぶいいんじゃないかな。ネジ兄さん、ハヤちゃんが中々来れないから寂しそうだったよ…?」
「あのネジが寂しそうだなんて…ふふ、ちょっと見てみたいですね」
「ほ、本当だよ…?それに…ハヤちゃんもやっぱり会いたい、よね…」
「ヒナちゃんから状況を聞けますしそれだけでも安心です。それよりヒナちゃん、ナルトさんと何かあったのですか?」
「え!!!?っひゃ、」
「あらあら、大丈夫ですか?」

驚いた拍子に、ヒナちゃんの手にあった湯呑みの中身が机に零れて、私はくすくすと笑いながら定員さんにタオルを持ってきてもらうように頼む。熱くはなかったようだ。分かり易いですね、本当。ヒナちゃんの真っ赤に焦る顔を見ながらこんなに想われるナルトさんが羨ましいなと、ほう、と溜息を吐いた。

2014.02.20

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