心地良い掌

「セナ、お前は私と一緒に火影室へ戻るぞ」
「ふぎょっ!!あれれ〜綱手様〜…そっちはもういいんですかあ?」
「やらなきゃいけないことができたと言ってるんだよ!悪いなコトメ、バタバタしてしまって」
「あ、いえ…」

突然病室へ入ってきた綱手様は、私の側でへらへら笑っているセナさんの首元をつまみ上げ、当たり前のように引き摺り出した。えっと…とりあえずノックくらいしてほしいんですけど…。いきなりの入室にビクッと背中を揺らした私なんて眼中にもなかったように見えたが、思い出したように私の顔をちらりと見た綱手様が苦笑いを浮かべていた。

「それとシカマルのことはそんなに怒ってやるな」
「へ?どういう…」
「シカマルに護衛を頼んだ時、私がお前のことを話したんだ。私の話しで混乱してたのは何もお前だけじゃない。あいつも…あいつなりにコトメを大事に思ってるから、お前が知りたがっていた過去を話すことができなかった…聞くことができなかったんだよ」
「…」
「それにアイツがお前に同情なんかで任務を受けると思うか?」
「って、朝の会話聞いて…!!!」
「あんなデカイ声出してりゃ普通は聞こえるだろうが」

少しだけ口元をニヤつかせつつ、呆れたように眉を下げた綱手様を見て気持ち後ずさった(残念ながら後ずさっても壁だった)。じゃあ……あの告白のような台詞も全部聞いてたってこと!?だからニヤニヤしてるんですねそうなんですね!?穴があったら入りたいレベルではない、今すぐ穴を掘って入りたいレベルだ!!

「落ち着け」
「いたっ」

…等と違う理由で混乱する頭を軽く小突いた綱手様は、先程とは打って変わって真剣な目を私に向けている。

「シカマルの言っていたことに嘘偽りは何もない。まあそういう男じゃないことくらい分かっているだろうが…少しは冷静になれ。お前は悪い方に考えすぎだ」
「…」

ほら行くぞ!とセナさんを病室から引っ張って行った綱手様が扉を閉めるのをぼんやりと見届けながら視線を下へ落とす。悪い方へ考えすぎ…かあ…だってあの時はハヤさんのこともそうだし、知らない私の過去を知ってたのもそうだしで頭ぐちゃぐちゃになっちゃって…分かってるんだけど…。悪い方へ考えすぎ、というより私にとっては嫌なことだらけだったんだもん…そりゃ悪い方に考えちゃうよ…じわ、と目が潤んできたことに気付いて慌てて腕でゴシゴシ目を擦っていると、また誰かが来たのか扉の開く音がした。

「…あ」
「……意外と元気そうじゃねーかよ」

なんで私がここにいるって知ってるんだ!めんどくさそーに頭を押さえながら目の前に映ったシカマルを見て、無意識に眉間に皺を寄せた。それを見たシカマルもなんでそんな顔すんだよ、と眉間に皺を寄せている。

「…な、ナニシニキタンデスカ」
「なんでカタコトなんだよ、まァいいや…体は大丈夫なのか?」
「なんで…っていうか!シカマルも大丈夫なの?!」
「あ?なんで…ってキバから聞いたのか…大丈夫だよ、別に心配いらねェ。それより俺の質問に答えろっての」
「むっ…大丈夫ですよーだ」
「なんだよまだ怒ってんのかよ…」
「…別に怒ってないよ、今シカマルが上からだったからイラッとしただけ」
「怒ってんじゃねーか」
「怒ってないってば!」
「あーはいはい……まぁ大したことねーんならよかったけどよ」

さっきまでキバが座ってた椅子に当たり前のように腰かけるシカマルを見て、ぷいっと視線を逸らす。別に怒ってるわけじゃないよ、ちょっと気まずいと思ってるだけなんだよ。くそう、優男め…

「…悪ィ」
「なんの謝罪それ」
「護衛だったのに守ってやれなかった…」
「護衛も同情もいらないって言ったもん」
「お前な…封印の器とか色々黙ってたことも悪ィと思ってるけどそれは、」
「分かってるよさっき綱手様から聞いたもん!分かってるけど…」
「…」
「…………よし冷静になった」
「意味が分からねェ…」

ぐいぐいと眉間の皺を伸ばすように引っ張ると、ちらっとシカマルへ視線を向けた。‥心底めんどくさそうな顔するな。

「…色々情報一気に聞き過ぎて混乱したというか…多分当たってた。ごめんねシカマル…」
「しょうがねーよ、あんな話し突然聞かされりゃ誰でも混乱する」
「…」
「なんだよその手は」
「仲直りの握手」
「おま…どこの子供‥つーか別に喧嘩じゃなかったろ」
「うるさいな!」

私がぎゃーぎゃーと騒げば渋々差し出された手。しっかり握るとぶんぶんと上下に振った。よしよし、これでこの話しは終わりだ!こうでもしないと私が落ち着かないからね(仲直りをちゃんとしたという気分的な問題)。ほっとしたように大きく息を吐くと、じっと自分の手を見ていたシカマルは慌ててポケットにその手を突っ込み、思い出したように口を開いた。

2014.09.08

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