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誰かとお付き合いをしている人達って、初めてのキスの場所とか感覚とか匂いとか全部覚えているんだろうか。ファーストキスはレモン味とかって聞いたことがあるんだけど、本当かなあ。え?そんなの聞いたことない?いやいや、私は聞いたことがあるよ。確かそんな感じで書いてあったのをどっかで何度も見た気がするもん。

授業中にも関わらず、ホワイトボードに目を向けてるフリをしながら、真横で真面目に勉強に取り組んでいる赤司君を見る。こそこそと隠れながらiPhoneで検索すると、どうやら世代毎に味が違うらしくて、今はいちごらしい。すごい甘ったるくない?私はレモンの方がいいなあ。

「ナマエ。今やってる所は試験に出るぞ」
「えっあっ、ありがと、」

私と赤司君は高校を卒業する前から付き合い出した。もちろん私の猛烈アタックの末にお付き合いを始めたのだけれど、告白を受け入れてくれた赤司君の顔と言ったら可愛くてたまらなかったのを今でもよく覚えている。俺も好きになってしまったから責任を取ってもらわないとだなんて、どんな殺し文句!そうして清いままで良好な恋人関係を楽しみつつ今に至っている。‥つまり、ファーストキスは済ませていないから、こうも気になっているのだ。ファーストキスの味というものに。

「随分落ち着かないがどうかしたか?」
「え?あー‥ううん、なんでもないよ」
「なんでもないと言う割には、手にはずっとiPhoneを持っているな。何を調べている」

ファーストキスの味をちょっと。‥なんて言えるわけがない。そんなくだらないことを調べるより先に授業に集中しろ、なんて言われるのが目に見えてるから。どうしても分かんないところをネットで調べてるんだって言ったら物凄く穢そうな顔をされた。‥まあ私の普段の行いが悪いせいだと思うけど、そんなに怪しまないでほしい。

「嘘が下手くそだぞ」
「そんなに言わなくても!」
「‥いいから、なんだ。言ってみろ」

今授業中なので後でもいいですか。なんだ?勉強のことについて調べていたんじゃないのか?今嘘が下手くそだって言ってたのにカマかけたな!むっとして頬を膨らませていると、ついでに先生から苗字、私語が多いと怒られてしまった。なんで私だけ!と思ったが、どうやら声が大きかったみたいだった。‥くそう、赤司君ずるい。


***


「‥ファーストキスがなんの味なのか調べてた?」

外の腰掛けに座って、小腹が空いたからと購入したサンドイッチを赤司君と食べながら白状すると、ぽかんとした顔で彼は素っ頓狂な声を出した。私はあんまり秘密にしたりするのが得意ではなかったらしい。そんなことは前々からなんとなく思っていたけど、まさか彼と密接に関係のあるファーストキスのことまで話してしまうとは。自分の馬鹿さ加減に呆れて、レタスをぶちぶちと噛み切った。

「授業中に何を調べてるんだ‥聞いて呆れるな‥」
「呆れないでよ‥気になっちゃったんだもん‥」
「そんなことは聞くものじゃないだろ」
「まあそうですけども」
「キスしたいなら言ってくれればするぞ」
「待って待って赤司君、雰囲気大事なので」

キスしたいならするぞって、その‥なんていうか、事務的な感じじゃなくてですね。雰囲気で、お互いが凄くしたくなって、ナチュラルに唇をくっつけるようなそういうのがいいの。私の説明で納得したのか納得してないのかよく分からないような顔をした赤司君が首を傾げている。‥いや、そもそもこう、説明するようなことでもないんだよね‥。なんだか私が「赤司君がキスしてくれない」って暗に言ってるみたいで恥ずかしい。サンドイッチを全部無理矢理口に詰め込んで、次の授業がある予定の教室へ行くことにした。多分赤司君は、昼からサークルの集まりがあるはずだからあんまり長居してる場合じゃないだろうし。

「待った」
「むぐ、う?」
「してもいいか、ここで」
「‥っんぐ、何を、」

愚問だったけど、そう聞いた。爽やかに笑ってるけど、ちょっとだけニヤニヤしてるのが分かる。‥違う、キスしてって言ってたわけじゃないもん。まだしたことのない恥ずかしくなるような触れ合いに、ちょっとだけ興味があっただけだよ!

「なんの味がするか賭けようか」
「‥え、嘘、本気‥?」
「俺はハムとレタスのサンドイッチの味かな」
「今食べたやつじゃんか!」

そんな夢のないこと言わないでいただきたい!絶対レモンかいちごの味なんだから!思わず大きく出た声に分かったからと一言、ふんわりと唇が触れた。ここ、外なのに本気で、した。硬直していると、やっぱりハムとレタスのサンドイッチだねと笑った赤司君。‥いやいや、私にはもっと別の味だったよ。って言っても、恥ずかしいのと吃驚しすぎなのとで、もう全然覚えてないけど。

2018.03.03

kiki様リクエストで初めてキスするお話しでした。素敵なフリリクありがとうございました!