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同じクラスの月島蛍君は、どの男子よりも口数が少ない。かと思えば勢いの良い毒を吐いたりもするし、嫌なことは嫌だとあからさまに表情に出る。そんな彼を私は好きになってしまったわけだが、押して押すこと半年経った今でも彼との距離は変わっていない。‥どころか少しずつ距離が遠くなっている気がする。

「月島君お願い!」
「キミ暇なの?」

最初こそ苗字さんと言われていたのに、最近じゃあもう苗字すら呼ばれなくなった。キミ暇なの?暇なわけがない。私は貴方にアピールするので大忙しですよ!月島君お願い!その言葉の後には私と付き合って、という流れが続くわけだけど、それを言わせてくれない月島君は照れ屋というか酷いというか照れ屋というか。そうしてちらちらと山口君を盗み見ると、彼は彼で空気を読もうとその場から離れようと試みてくれていた。

「ちょっと山口どこに行く気」

ええ‥。気まずそうに声を揺らす山口君の目は、私と月島君を行ったり来たり。そうして結局月島君に弱いからまたすとんと椅子に腰を下ろすのだ。もう、後少しだったのに!ぷくっと頬っぺたを膨らませてみれば、ぶすっと月島君の人差し指が突き刺さった。‥結構本気でやったな?

「‥月島君は私の何が嫌なの」
「しつこい」
「他には」
「ウザイ」
「他には」
「ほんとしつこいよね。もう少し大人になったらどうなの」

そんなこと言われても結局の所私はまだ子供だし、大人の階段を登るにはまだ早いんですう〜。そもそもそんなことを言う月島君だって子供じゃないか。子供が子供に大人になれっていうのはどういうことなの。突き刺さった人差し指はぐりぐりと私の頬っぺたを抉って、薄ら笑いとともに離れていった。‥くそう、本当はもっと怒っていいのだろうけど、月島君が触れてくれただけなのだから怒るに怒れない(そもそも触れてくれたというべきかは疑問だが)。

「ていうか、なんで僕なの」
「え」
「‥僕じゃなくても愛想イイ優しい奴なんか5万といるだろ」
「愛想良くない自覚あったんだ‥?」
「君に対してはね」

はあーっ。大きく溜息を吐いて、ばちんと私のおでこをでこぴんすると、なんで、とばかりに月島君はずいっと顔を覗き込んできた。なんで?そんな、恋したことになんでってあるの?なんか理由付けが必要なのかな。敢えて言えば顔も好みだし勉強もできるし身長も高いじゃん。そうして稀に出るなんとも言えない照れ顔を見てしまってから、ずっと私は貴方にハートを掴まれているんです。そんなちっぽけな理由で?とか思われるかもしれないけど、恋なんて何から始まるか分かんないんだからね!

「‥愛想が悪くたって、月島君だから好きになっちゃったんだもん」

面と向かって好きだなんてぴしゃりと言い放ったのは2回目だった。最初も今も恥ずかしい。だけど胸を張って言えること。覗き込んでいた瞳をゆらりと揺らした後、馬鹿じゃないのと一言癖のように言い切った彼は、呆れたように溜息を吐いていた。

「月島君は私がどうなったら好きになってくれるの?」

少しだけ前のめりになった私を、月島君の掌が押さえた。やめてくれない、近いの無理。‥女の子に聞かせていい台詞ではない。勿論その言葉にしゅんとしてしまう私の背中。それでも諦めるという姿勢を見せたくはない。だって、そのくらいの気持ちだなんてこと思われたくないから。ぐぐぐっと掌を押し返して踏ん張ってみたが、案の定男の子の力には敵わなかった。

「どうなってもらっても困る」
「す、少しは頑張らせてよ!」
「頑張らなくていいから」

頑張らせてもらうこともできないのかと、しゅんとした背中がさらに丸くなる。周りではいつものアレかなんて、名物と化した月島君と私をテレビでも見るかのように眺めるクラスメイトの視線が痛かった。いやでも、こんなことですっぱり諦めるような私ではないのは分かっているでしょう?きっと周りだってそう思っているはずだ。

「‥もうちょっと空気読めるようになってくれたら考えてあげてもいいんだケド」

ぽつり。独り言みたいに口から溢れた言葉に、はたと思考が停止した。空気読める女子がお好みでした?即座に問いかけてみれば、ほら、そういうとこ。なんて小馬鹿にしたような声が返ってくる。ほら、そういうとこ?‥なんでも口にしちゃうとこ?少しだけ可能性を投げられて、ゆっくり頬が上がった。

「え、ほ、ほんと、?」
「ウザイけど嫌いじゃないしね」
「ツッキー、日向が呼んでる」
「はあ?」

小さな男の子に呼ばれて、不服そうに席を立った彼の後ろ姿をぽかんと見つめて瞬きをした。ウザイけど嫌いじゃない。‥ということは、ウザイのがなくなれば私のことを好きになる?好きになってくれる?ちらりと後ろを振り向いた月島君が、意味ありげに笑って僅かに舌を出した。え、なに、今のどういう意味なの。‥キャラじゃないよそんな顔。元々カッコイイのに破壊力追加しないで!

「‥苗字さん顔真っ赤だよ」
「煩い知ってる‥なにあれちょっとずるくない‥?見た?舌ぺろって出したの見た?」
「ツッキー楽しんでるなあ」
「なに?なにを楽しんでるの?」
「あれでもツッキー苗字さんといるの楽しいんだよ」

あれでもってどういう意味だ。‥どういう意味だ?一瞬考えて固まった後、頭の中心からぼふんと噴火した。わ、私といるのが楽しいだと‥!?月島君と仲が良い山口君がそう言うのであれば信憑性は高いと言える。楽しんでるだなんて知らなかった‥だってずっとああなんだもん。

「陰ながら応援してるね」

まるで女の子の友達がいいそうな台詞を吐いた山口君は、ツッキー!なんて言いながら私の隣から離れていく。苗字と何話してたの、って少しだけつんとした月島君が私の目に映った。‥苗字、だって。彼から久しぶりに呼ばれた自分の苗字にどきっとする。ああ、またこっち向いてくれないかなあ。その声が聞こえたようにちらりと視線を向けた彼は、やっぱり意地悪そうに笑っていた。

2018.02.21

まるまる様リクエストで付き合ってほしくて頑張るお話しでした。素敵なフリリクありがとうございました!