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付き合って初めてのお家デート。もちろん私の親がいないからできることであって、もちろんお泊まりではないのだけれど。それでもお母さん達は結婚何周年とかなんとかのデートらしいので、深夜遅くに帰ってくるそうな。だから、呼んじゃった。東峰旭君。‥大学1年生の時から付き合いだして、1年とちょっとの男の子。

「と‥突然帰ってきたりしない‥?大丈夫?」
「2人ともお酒大好きだから、べろんべろんになって遅くに帰ってくるよ〜。毎年のことなんだから大丈夫!」

じゅわじゅわとお肉を焼いていると、忙しなく周りをうろちょろする東峰君は緊張しているのかもしれない。座ってていいのにって言っても、やることある?だの、なんかない?だの。もう、大人しく座ってていいのになあ。

「なんか、やること‥」
「もー。しょうがないなあ‥じゃあ、レタス千切ってもらっていい?」
「あ、ありがと‥」

なんでお礼まで。おかしくってぷふっと吹き出すと、エエ、何?と言いたげに揺れる心配そうな瞳とぶつかった。今日はちょっと辛めのカレーライスを作ろうと思っていて、野菜は既に全部切り終わっているからあとは煮込むだけ。私が作るカレーはチョコレートとケチャップが隠し味になっていて、コクが出て家族には結構評判が良いのだ。‥東峰君にも是非美味しいと言っていただきたい。カレーにした理由はたったそれだけである。ちょっとした、東峰君に褒めて欲しいという心。

「‥それ、チョコレート入れるの?」
「ふふふ、隠し味!美味しいんだよ〜?」
「へえ‥凄い、よく知ってるんだね」
「ふへへ」

ぱりぱりとレタスを千切りながら、私の手元近くにあるチョコレートを見て、彼はぱちくりと目を大きくした。ふふん、そうだろう、知らないだろう。ちょっとした優越感のまま、どぼどぼと水をお鍋に注ぐ。ばらばら。じゃがいもも投入して火をつけて、とりあえず一旦やることはないとレタスの状況を確認すると、まあある意味では東峰君らしいというかなんというか、千切りのように細かく千切っている彼のレタスに笑ってしまった。

「ぶっ‥東峰君、もっと適当でいいんだよ、レタス」
「えっ、あ‥そうなの‥?」
「もっとこう、おっきくていいの」

東峰君の手を掴んだまま、そのまま大きなレタス1枚を2、3枚に分けてみせながらくるりと彼の顔を覗き込んだ。‥なんか、顔が赤い。あれ、もしかして手を掴んだままレタス千切ったのまずかった?子供扱いしすぎた‥?

「ご、ごめん、嫌だった‥?」
「は!?いや、そんなわけないよ!」
「?」
「ナマエちゃん、‥手、小っちゃいよね」
「ええ?東峰君が大きいだけだよ〜」

レタスを千切り終えた指で、逆に手を取られて撫でられる。うわ‥うわわ、何急にどうしたの。じい、と逆に見つめられて小っ恥ずかしくて、慌てて煮込まれているカレーのお鍋へと視線を変えた。‥まだ全然時間がかかるなあ、じゃがいもだって、きっとまだ固いままだ。

「こっち向いて」
「や、やだやだ、なんか恥ずかしい、」
「いつも俺に恥ずかしがらないでって言うのに」
「なんか急に東峰君積極的だからびっくりしてるの!」
「‥積極的だと嫌?」

そんなことはないけども。ちらりと東峰君に視線を向けて、優しい顔が目に映るともっと恥ずかしい。

「東峰君、‥いつもへなちょこなのにずるい」
「うわあ‥酷いなあ‥」
「突然そういうこと言うのずるい」

とっても控えめで優しい東峰君が、たまにこうぐいぐいくるときゅんとしちゃうじゃん。ああ、やっぱり男の子なんだなあって穏やかだった心が波を打つ。首から顎を伝って、頬っぺたがに触れて、唇に触れる。‥あ、これあれだ。東峰君のサイン。触れていい?っていう彼の問いかけ。

「‥生野菜の匂いがする」
「ごめん、」

ゆっくり親指でなぞりながら、相反して真っ赤な顔が近付いてくる。余裕があるんだかないんだか分かんなくてそれが笑っちゃう。お鍋の中身がぐつぐつと音を立てて柔らかくなるまでもう少しかかるんだけど、それまでどうしようか。‥今度は一緒に、レタスでも千切りますか。

2018.02.10

真世様リクエストで付き合って初めて手料理を振る舞うお話しでした。素敵なフリリクありがとうございました!