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欲しかったパーカー、総じて完売だなんてあり得ない。SNSで話題の、ちょっと丈が長くて、柄がちょっと変わってて、紐が太くて、袖丈はちょっと長めで。ちょっと高かったけど、わたしの好みど真ん中の超可愛いパーカーの為にせっせとバイトしたのに、やっと給料日!というタイミングでなんで完売なのか!!

「お前なにスマホ睨みつけてんの」

再販がもしかしたらあるかもしれないと、朝・各学校の休み時間・放課後すぐ・そして寝る前までとずっと張りっぱなしだ。だけど全く再販にならない。まっっったくた。そんな昼のお休み中、ずっとスマホを眺めているわたしを不信に思ったのだろう彼氏の貴大が声をかけてきた。ここのところスマホでパーカーを狙っているばかりに、喋らない時間が増えているのが現状である。

「欲しい服の再販を狙っています」
「まじかよ。どれ?」
「これ!」

画面いっぱいに写った、淡い空色を垂らしたような柄のパーカー。それを見た瞬間、ああこれ、と言いたげに突然自分のロッカーへと急いだ貴大は、どやあっとばかりにわたしになにかを見せつけてきた。なに、と思った瞬間にわたしはその辺にある空気を全部吸い込んで大きな声を出してしまう。目の前に見せつけられたそれは、完売した筈のわたしが狙っていたパーカーだったのだ。

「な!なんで!?なんで持ってんの!?」
「これユニセックスだからメンズも着れるんで〜す。俺発売後すぐに買ったもんね!」
「え〜!?うっ‥めっちゃ可愛い‥可愛い‥!ずるい貴大ばっかり!部活してる癖に張り込みしてるのずるい言ってよ!」
「ナマエも狙ってるだなんて知らねーもん。いいだろ、これ俺が着るとさらに可愛いんだけど見たい?」
「一回!一回でいいから試着させて!」
「おい無視かよ」

どうしても着たい!という私の圧に押されて、貴大は渋々ながらも了承してくれた。本音を言うとこのまま持って帰りたいくらいではあるが、流石に彼氏の物であろうとそんな盗みみたいなことはできない。確かに貴大はお洒落だし、これただって好きそうなデザインだからもしかしたら‥とは思っていたけれど、まさか私と同じようにこれを狙っていたとは。

下から被って、腕に手を通す。サイズはLで、わたしにはとてもじゃないがかなり大きいサイズ感だ。だけど、この大きさもアリはアリかもしれない。下にスキニーパンツでも履けば、全然外に出て遊びに行けるだろう。髪の毛も少しコテでアレンジすれば、ガーリーなショートヘアに仕上がっていい感じなのでは?

「これやっぱいいなあ可愛い!」
「‥おおう」

ねえ、見て!と貴大へ向けてくるりと一回回ってみる。すると、一瞬目を見開いたかと思ったらぱっと右手で口を隠し、何か見てはいけなかったかのように少し視線を外したではないか。‥いや、その視線はすぐに戻ってきたけれど。

「え、なに」
「いや、なんつーか、‥丈が長すぎてさ‥下履いてないみてえ‥」
「はい?‥あ、ほんとだ。いやでもスカート履いてるから」
「分かってるわ!分かっててもこう‥!いや、いいな‥いい。めちゃくちゃいいわ」
「‥貴大の目が変態臭いんですけど」

パーカーの丈の長さで見えなくなった、制服のスカート。どうやら男の子は本当に「見えそうで見えない」チラリズムというものが好きらしい。貴大の目はさっきからずっと私の太腿を見ては逸らしたりと随分忙しないが、‥正直そういう風に意識たっぷりに見られると、こっちまでちょっとドキドキしてしまうのだ。そうか、こういうのが好きなのか、貴大は、って。

「‥あのさあ、ナマエ」
「ん?」
「それ貸すから、今度デートしよ、来週の月曜日」
「え。いや何急に、」
「パーカー再販かかったら俺もすぐ連絡するから。ヤバイ、メッチャ可愛い、‥あー!!女子ってずりぃ〜!いや彼女か!彼女だわ!」
「ちょ、‥ッちょ!ここ教室だから!」

なにやら自分の世界に入り込んで悶え苦しんでいる貴大は周りが見えていないらしい。対して私は貴大のパーカーをしっかりと着ているものだから、まるでバカップルそのものである。

数分後。ひょこっと教室の外から顔を覗かせた松川君が、私と貴大の様子を見て「邪魔かもしんねえけど部活の集まりあるんだよね」と苦笑いをしている姿が見えた。なのに貴大は「ちょっと待って」と口を手で覆ったまま動こうとしない。‥ああ、もう分かったから、デートするから、さっさとここから去ってほしい。こっちは顔が熱くて熱くてたまんないんだから。

2020.02.25

はまゆ様リクエストで彼パーカーのお話でした。素敵なフリリクありがとうございました!