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人にはそれぞれコンプレックスがあると思っている。それは例えば容姿だったりとか、性格的なものだったりだとか。そんな私もコンプレックスがあったりするのだが、私の場合は前者の容姿だ。

「ナマエってほんと、綺麗な一重だよね」

そんなことを言われても何も嬉しくないのになって思いながら、とりあえずありがとうって何度言ったか分からない。すうっと線を引いたような、何もない一重瞼。目が小さい訳ではないらしいのだが、いつもできる女みたいな大人の目をしているねと良い言い方で言われてしまう。だけど私にとっては都合良く言われているようにしか聞こえないのだ。

「‥二重の方が可愛いじゃん。化粧もし易いし、くっきり見えてより倍可愛い」
「そうかなあ、私はナマエの一重好きだけどなあ」

そりゃどうもね。ぱちくりした二重を持つ友達にそう言われてしまうのは最早嫌味にしか捉えられない。溜息を吐いて持ってきた雑誌を開いては口がへの字に曲がる。雑誌の化粧特集ページは9割が可愛い二重の女の子に優しい内容で、あとの1割はぞんざいにされたような一重と奥二重の内容。それが許せないのはいつものことだけれども。

「苗字、何見てんだ?」
「あ、西谷君はどう思う?」
「なんだ、俺がどうした!」

いや君はどうもしてないんだけど。突然話しをふられて嬉しいのか、ぱあっと楽しそうに話しの輪に入ってきた西谷君が私の隣の椅子に腰掛けてきたのだ。ちょっとだけ近い距離が嬉しいなんていうのは、‥まだ誰にも言ったことはない。

「一重と二重、どっちが好き?」
「二重だな!」

あー、その質問はない。ないわ。あんたそんなに性格悪かったっけ?と思う暇もないまま彼は即答した。隣に一重がいるんだから少しは躊躇しなさいよ。‥とは思ったけれど、そこがまた彼の良いところであり、私が彼を好きだと感じるところだ。当然のように答えた西谷君は満足そうににかっと笑う。

「それよりも、」

それよりも!?いきなり話題を変えにかかってきた西谷君に目が点になる。私にとってはコンプレックスの、死活問題でもある一重、二重問題。明日からアイプチの練習でもしなければいけないかもしれないなんて考えてしまったほどなのに、彼にはつまらない話題だったらしい。逆に男らしいと言えばそうなのかもしれないけれど、仮にもこっちは乙女なのだ。

「苗字の一重の方が綺麗だけどな!」
「!?」
「あ!やっぱり西谷君もそう思う〜?」
「おう!なんかこう、目力強くてつい引き込まれるよな!」

ぐりんっと首が動いて、ぴたりと私の前で顔が止まった。下から見上げてくるような仕草の西谷君に、つい背中が仰け反る。そういう西谷君こそ大きな目で羨ましいんですけど、という反論は出ない。それよりも恥ずかしいが強くて、ぎゅっと唇を口の中に引っ込めた。きょろりとする瞳が私を見ているのが、分かる。その中に私が映っているから、‥よく分かる。

「ひ、一重なんて可愛くないよ‥一重なんて、私のコンプレックスなんだけど‥」
「は?なんだそれ勿体ねえー!よく見てみろよ、凛々しくて俺は好きだぞ」

どき。少しだけ高鳴った心臓を心の中で押さえつけて、なんとか声を絞り出す。好き、?掠れたような声は西谷君には聞こえていなかったようだったけれど、友達は何かを察して眼を丸くした。

「もしかしてあれか?一重隠す為に前髪伸ばしてんのか?」
「ちょっ‥やめて、やめてよ、」
「そんなの俺の顔も見えないだろ!ちゃんと映せ!」

映してるよ!この上ないくらい君の顔は映してる!ぺたりと髪の毛を払いのけられて、ほかほかとした西谷君の掌がおでこを行ったり来たりする。

「ほら、やっぱ隠すなんて勿体ねえよ!」

またしてもにかっと太陽みたいに笑った西谷君が目の前を埋め尽くしている。友達から西谷君へ渡されたきんぴかのアメピンが前髪を留めて視界が広がったのだ。何度かぱちぱち、瞬きをするとぽぽっと彼の頬っぺたが赤くなったような、‥ならなかったような。‥あれ、もしかして本当に一重の私、脈アリ?固まってしまった西谷君に、今度は私が笑ってしまった。

2018.02.06

菊様リクエストでコンプレックスを好きだと言われるお話しでした。素敵なフリリクありがとうございました!