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俺は、きっとこの学校の誰よりも強面で、そしてきっとこの学校の誰よりも気が小さいのかもしれない。バレーも少し逃げ出したことがあったし、怒られたらすぐ謝ってしまうし、悪くないのにそれも謝ってしまう。だからこんな俺に好きな人が出来ても、進展しないであろう未来しか見えないんだ。いや、現在進行系で進展なんてしていないし。

「東峰、そっち終わった?」
「ごめ、あとちょっと‥」
「そんな謝らなくてもいいじゃん。私別に怒ってないでしょ?」

そうなんだけど。そうなんだけど、つい。俺の性格上どうしても。そう言ったところで彼女は少し呆れて笑うだけだ。
‥いつからだったかな、こうやって委員会を一緒にし始めて、到底話すことはないだろうなと思っていた苗字さんと会話が出来るようになったのは。多分、彼女が俺に「男子バレー部の試合この間見た。東峰って思ったよりかっこいいんだね」って言ってくれてからだ。それからなんとなく話をするようになったと思う。

「今日さ」
「うん?」
「森谷に言われたんだよね。苗字ってずっと怒ってるみたいだからすげえ話しずらいわって、面と向かって。それ、ちょっとショックで」
「え」
「わたしって怒ってるみたい?」

怒ってるみたい?という苗字さんの顔は、笑ってはいたけどちょっと困っているようだった。普段は強きな一面が目立つ彼女のことだから、多分間違えて捉える人も多いのだろう。でも、それはもう俺にとっては理解の範疇だった。強気な一面が多いのは元々物事をハキハキ言う人だからだと思うし、皆を纏めるリーダー的存在のポジションにいるし、人一番真面目で正義感が強い性格だから、曲がったことも好きじゃない。だからつい口調が強くなってしまうんだろうなと。

「俺にはかっこよく見えてるから分かんないな‥」

正直な気持ちだった。怒ってるみたい、は多分、他人の意見だから。それがいいと思う人もいるし、そうじゃない人もいる。けれど俺はそのまま変わってほしくなかったからそう言ったのだ。そんな俺の回答が良かったのか悪かったのかは分からないが、苗字さんは「え、かっこいいの?」と一言、元々大きな目をさらに丸くさせて俺を見ていた。

「変なの、女の子にかっこいいって嬉しくないよ」
「そ、そうだよね、ごめ、」
「でも東峰がそう言ってくれるならいっか」
「かっこいいっていうのは本当だけど、女の子っぽいところもあるから、苗字さん」
「‥も、って、ほんと東峰は正直だなあ」
「う‥」
「で?教えてくれないの?女の子っぽいところ」

ふわっと笑っているのに、少し頬を緩ませて勝気っぽいのが男の俺からでもかっこよく見える。そういうところが気に入らないとか、そういう男子もいるんだろうなと思ったり思わなかったり。
苗字さんの女の子っぽいところ。それって実は上げ始めるとキリがなくて。毎日持ってくるお弁当が手作りだということだったり、たまにぼーっとしてて、時折笑みが漏れるその視線の先には犬か猫がいたり、暑いって額に汗を滲ませる顔が色っぽかったり、寒いと手を合わせる姿に守ってあげたくなったり。でもきっと、そういうところを伝えても「変なの」って言われちゃうんだろうなあ。‥そしてそれは、俺の秘密にしておきたかったりもする、から。

「やっぱり、秘密にしておこうかな‥」
「は?東峰の癖に生意気」
「そんな風に言わなくても!」
「じゃあわたしも秘密にしよ。‥東峰が実はバレー以外でもかっこいいってことは」

勝気な顔で悪戯に笑った苗字さんの言葉を理解する前に、俺の頬は少し赤かった気がする。それ、褒められてるってことでいいのだろうか。‥もしかしたらって思っても、間違っていないのだろうか。明日のホームルームで配るプリントを纏めて、ホッチキスで止める手に力が入る。聞いてみたいのに、口はもう動かない。

「早くしないと先に帰っちゃうけど」
「‥さ、先に帰ってて‥」
「いいの?」
「‥‥‥い、いやだ‥」
「じゃあ早くしてよ」

俺がそう言うのを分かってるみたいに、彼女は俺の横に椅子を出して座り込んだ。「終わったら、分かってるよね?」っていう顔が、今までのどの女の子よりも、女の子だった。

2019.12.28

まい様リクエストで強気なヒロインに恋する、東峰視点のお話しでした。素敵なフリリクありがとうございました!