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「‥ほんと似た者同士だよな」

澤村君の声に、私と孝支は同時に顔を上げた。机の上には鍋の具材とキムチと、真っ赤なハバネロソースとかデスソースとか。

仲の良かった同級生を数人集めて、孝支と籍を入れる前日に鍋パーティーをすることになった。場所は既に一緒に住んでいる1LDKの自宅で、元烏野男子バレー部3年生と、そのマネージャーだった潔子を呼んだ。それ以上部屋に入れるとぎゅうぎゅうになるからって、他のクラスメイトは呼ばなかった。籍を入れるだけで、式はまだ決めていない。そのうちやれればいいかなって、お互いのこういう緩さが合うのも結婚に踏み切った理由の1つだ。

「それ、直接投入しないよな‥?」
「孝支、しないでね」
「えー旨辛鍋なのに辛くしねえのー?」
「いやいやお前らの舌に合わせたら死ぬぞ。俺ら3人」
「自分の器に入れるようにしよ。辛さの加減は人それぞれだから」
「ちぇっ」
「ナマエが常識的で助かるね。よかったね菅原」
「俺も常識的ですー」

高校の時、出会ったのはまさに運命。坂ノ下商店で最後の1個だった激辛麻婆まんを頬張っていると、きらきらの笑顔でお店に入ってきた男がいた。それが、菅原孝支だったのだ。きらきらの笑顔で激辛麻婆まんを頼むと、残念ながらもう全部売り切れで、むしろ最後の1個は私が食べていて。もうねえぞ、というお兄さんの言葉にしゅんと項垂れた彼の顔があんまりにも可愛かったから。むぐむぐと頬張っていたその半分をちぎって、思わず彼に差し出した。

「よかったら食べる?」

大好きな辛い物を、同じく辛い物が好きな孝支と共有して、そこから仲良くなるのは時間がかからなかった。好物が激辛麻婆(私は豆腐も春雨も)ということ、仲良くなってから男子バレー部にも所属していることを知って、そんな部活に没頭する孝支もかっこいいと思ったし、孝支も私が部活に没頭しているのを好きだと思っていてくれたらしい(ちなみに元女子バスケ部)。まるで運命の糸に引っ張られていたみたいに、当たり前のように付き合いだした。喧嘩もなくて、穏やかなゴールイン。‥って、今考えると相性良すぎじゃない?

「2人の食生活を考えるだけで恐ろしい‥」
「ちゃんとした物食べてるの?」
「ナマエは普通の料理ちゃんと作れるのか?」

失礼極まりない3人の言葉の暴力に、むうと頬っぺたが膨らんだ。流石に毎日毎日激辛料理は作らないよ。普通のお味噌汁も作れるし、日本の和食だってちゃんと作ります!信じられねえよなあ、なんて緩く笑う東峰の頭をチョップした。ヘナチョコだった癖に、いつから私に意見を言えるようになったんだこいつめ。

「取り敢えず鍋食べてみるべ。これナマエが昆布とか鰹節とかで出汁から作ってるやつなんだよ」
「まじかよ!?それ凄いな!! 」
「孝支もちょっと手伝ってくれたよねえ」
「灰汁取りだけな」

コチュジャンや豆板醤を客人がちゃんと食べれる程度にだけ使って、長ネギの固い部分や白菜の芯を入れて火を付ける。ぐつぐつしてきたところで肉団子を追加しながら、高校時代の思い出に華を咲かせた。

春高、凄かったよね。日向や影山、テレビでバレーやってんの見るけどホント変わんないよな〜。ああ、超速攻のおチビちゃん!おチビちゃんってお前な。

お酒も加わって鍋にお箸もつけて、そんな鍋の中身が減ってきたところでツマミがなんかほしいよなあという、少しお酒にほろ酔い気味になった澤村が言った。しょうがないなあ、と私が席を立つと、追って孝支も立ち上がる。東峰も潔子も、お酒が入って随分楽しそうだ。‥いや、潔子は笊だった。

「なんか手伝う」
「え〜ほんと?じゃあなんにしよっかな」
「ミニ餃子!具材は挽肉とネギの激辛炒め入れたやつ!」
「それは2人で飲む時ね」
「え〜‥」

ぐりぐり。孝支も酔っているのか、私の右肩におでこを押し当てて駄々をこねている。扉の向こうに3人がいるのに、そういうのはまた後でねって言うと、さらにお腹にまで腕を回してきた。今扉を開けられたらどうすんの。いや別に明日籍を入れる訳ですから疑問も何もないのはそうなんですけど。そうじゃなくて羞恥的なものが色々あるんです。そうそう。

「‥孝支、麻婆春雨作るから手伝って。嫌ならリビング戻ってください」
「手伝います」
「素直でよろしい」
「その前に、こっそりちゅーしませんか。そしたら手伝います」
「孝支が条件出してくるのおかしい!」
「おねがい」

ちょっぴり舌ったらず。口の端には、少しだけ赤くて辛そうなソースがついている。ピリリとするかなあと思って、恥を忍んでちょっとだけ口付けた。ピリリとなんて全然しなくて、まるで砂糖みたいに甘い。さっきのお鍋、あんまり辛くなかったのかもしれないなあなんて安易に麻婆春雨に投入したハバネロのせいで、残りの3人が悶絶する姿を見るのはそう遠くはない。

2018.04.07

リオ様リクエストで一緒に料理をするお話しでした。素敵なフリリクありがとうございました!