「ずっと俺の事だけ好きでいて。」

長かった冬に、先日終わりを告げた。私は最近まで恋を知らなかったのだ。恋とは、愛とは。いつも周りが話している色恋の話を適当に相槌で躱していた私が先日初めて恋に落ちたのだ。
恋というものは落ちるもの。そう教えてくれたのは誰だったか、思い出せないくらい昔だった。あぁ、あれは教えてくれたのではなく、隣でお茶会をしていた婦女子たちが交わしていた会話だ。

「気がついたら目で追っていて、胸が高鳴る。さようならをしたばかりなのにすぐ会いたくなって自分が上手く制御出来ない。」らしい。

どうしてそんな厄介なものになりたがるのか分からなかった。口を開けば婚約者の話や恋人の話。胸が苦しくなってその人のことしか考えられなくなるのに。絶対にしんどいはずなのに。

でも恋をしてわかった。それが苦しくも甘く、心地好いものだと。
胸が高鳴って仕方なかった。耳元に心臓があるのかと何度も何度も思ったし、体温が著しく高温になって溶けてしまうのではないかとも思った。善逸が他の女の子と話している姿を見てその度に胸がチリチリ妬けるようになった。禰豆子に夜な夜な会いに行っている姿を見るともっと苦しくなった。善逸と一緒に居られれば居られるほどそれを見るのが苦痛で堪らなかった。心が冷えきった。それでも想えば愛しくなって、ばれてはいけないと、常人以上の聴覚を持つ善逸には聞こえているのではと、抑えようと思えば思うほどに音は大きくなった気がしたし、何度か善逸もびっくりしていた気すらする。

「名前ちゃん、」
「えっ、は、はい!」
「あのあのさ、あのさ、」
「うん、なに?」
「間違いだったらごめんね。あの、─────」

知 ら れ て い た!

そりゃそうですよね。の気持ちでしかないが逆手に取った。開き直りだ。「俺の事、好きなの?」そう聞かれたあとに動揺して金魚のようにもなったし顔だって熱があるのかってくらい真っ赤になった。そこで私は「好きですけどなにか?」を貫いた。開き直りだ。もう思考回路はショート寸前。いやショート通り過ぎて1回爆発したわ。
しかし私の好きな彼にはいい人が既にいる。……2回目の爆発を脳内が告げた気がした。


「ぜ、善逸のこと好きだったらなにかいけないの!」
「あや、そ、そういうんじゃなくて…!」
「だったらいいじゃない!禰豆子のことが好きなのは知ってるけど私が誰を好きになろうと関係ないし!」
「だからー…」
「禰豆子が人間に戻ったら祝言挙げるんでしょ!わかってるよ!でもいいじゃん好きでいるくらい!」
「聞いてー…」
「それまでに諦めるから!!!!だから、」

それまで好きでいさせて、そう続けようとした言葉はやわっこくて温かい何かに塞がれ発することが出来なかった。

「だめ。だめだよ。」
「ん、なな、な、なに、」
「俺の事好きじゃなくなるの、許さないから」
「え…?」
「俺だって名前ちゃんのこと、好きだ。」

「ずっと、俺の事だけ好きでいて。」

暖かい春が、舞い込んだ。


fin

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