少しでいいから泣いてごらん

善逸くんはいつもそう。私以外の女の子に鼻の下を伸ばして優しくするの。いつも私にくれる優しさは誰のものでもないのに、いつだって別の誰かのものだ。"女の子"だから優しくしてもらえているだけであって、そこに他意はなく、あるのは下心だけ。
そんな善逸くんが蝶屋敷の看護婦である私と付き合ってくれているのはきっと善意なのだろうと思わずに居られなかった。それでも嬉しくて頑張って流行りの袴をお給金を貯めて買ってみたり、髪型を変えてみたり、しのぶ様に教えていただいたお化粧を施してみたり。アレコレとしてみたものの、そういう時に限って善逸くんはいない。怪我していないのが救いではあるが、たまにはと思わずにはいられないのだ。


「ねぇそこの君!」

おつかい中にたまたま立ち寄った甘味処の近くで聞きなれた声がした気がして振り向いた。そこにいたのは金色を輝かせた意中の彼で否応なしに胸が高鳴る。善逸くん、近くまで来てたんだ。そう思っていたのに隣にいたのはキチンと纏められた綺麗な髪についこの間出たばかりの京の方の着物の女性。控えめな紅なのに顔立ちをしっかり引き立てていて美人の代表のような女性だった。

「そこで少しお茶しませんか!」
「あら、ごめんなさい。」
「そう言わずに!俺奢るし!ほら、足とか疲れてない?」
「フフ、用事の途中なの、それじゃあね。」

スッと街の雑踏に消えていった女性を名残惜しそうに見つめながら次の女性を探しているのがわかった。これだけ距離もあるし、なにより人の多いところだからきっと私の音は聞こえていないのだろうななんてどうでもいいことを考えながらまた次の女性へと声を掛けているのを見つめていた。


その日の夕方。
頼まれていたおつかいを早々に済ませて帰宅し、また仕事をしていた私を呼んだのはお花をたくさん抱えた、昼間に街で見かけた善逸くんだった。

「おつかれさま、名前ちゃん!今日も可愛いね!」
「あ…、善逸くんも、お疲れ様」

どうしてこんなに普通にできるんだろう?私が昼間に見ていたことを知らないからだろうけれど、さすがにあきれる。その善逸くんは「どうしたの?」なんて聞きながらも、手に持っていたたくさんのお花を編み込み始めた。善逸くんは手先が器用で得意なのは花冠を作ることだったなとふと思い出して、赤や黄色、青と色とりどりのそれは私の頭を綺麗に彩ってくれると思っていた。のに、

「綺麗なお花たくさん見つけたからさ、禰豆子ちゃんに花冠作ってあげようと思って!」

きっと似合うよ、フフフと嬉しそうな満面の笑みを浮かべた善逸くんに私の方が我慢が出来なかった。

「どうして、」
「え?」

「どうして他の子ばかり見るの?」
「私に何が足りないの?」
「私は一体何?」

一度空いた口はなかなか閉じることを知らずに善逸くんへと降り注ぐ。何を言ってるのかわからなくなってきた挙句、目の前がぼやけて頬に涙が伝った。
きっと面倒くさい女だと思われた。嫌われるに決まっている。私なら、私なら、私みたいな女は嫌だ。
口を噤んで涙を止めようと必死になっていても止まることは知らない。こんなことなら善逸くんとお付き合いなんてしなければよかった。その優しさに触れるんじゃなかった。何もかも知らないままの方がきっと幸せだったに違いない。知ってしまったら戻れないことくらい、わかっていたのに。

「名前ちゃん、」

私の名を呼びながら善逸くんの親指が涙を拭う。やめて。優しくしないで。その優しさが辛いの。そう言いたいのに、その手を振り払いたいのにできずにいる。

「やっとワガママ言ってくれたね」
「……?」

グズグズと鼻を鳴らす私を胸に抱きとめた善逸くんがポツリポツリと話したのは私の我慢癖のことだった。
昔から六人弟妹の長女だったせいか下の子の面倒を見たり、我慢することが多かった私をなんとかしてワガママを少しでも言えるようにしたかったらしい。炭治郎くんも同じような生い立ちだからきっと我慢していると善逸くんに話したそうだ。

「名前ちゃん、俺が言うことに対して反対しないし手紙も簡潔に纏められてる。それに名前ちゃんから会いたいって言われたことないなって思って。」
「それでほかの女の子と話すのに繋がるの」
「だって、あそこで名前ちゃんに話しかける訳にはいかなかったし…」
「だからってあんな美人に話しかけなくてもいいじゃん…」
「ご、ごめん、ごめんね、名前ちゃん」
「……気付いてくれてたなら甘味処にでも行きたかったのに」
「ウッ……ごめん、」
「絶対許さない」
「エッ!?!?そ、そんな……ッ!」
「……一生そばに居てくれないと許さないから」
「…!!!、よ、、よよ、喜んで!!」

誰も見ていないのを確認してからソッと善逸くんの唇に接吻を落とす。あわわと赤い顔の善逸くんにしてやったり顔をして「その花冠、あげにいくんでしょ?」と放った。

「最初から名前ちゃんのだったんだけどね。」

fin

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