透明傘 | ナノ
6


八時ちょい過ぎ
家に帰ってきたのは6時で、掃除洗濯をしていたらこんな時間になっていた。のんびりしていた俺が悪い。


そろそろ湊さんが帰ってくる頃だから料理をしなければいけない。


夕飯どうすっかな…
ハンバーグ?いや、30分じゃ作れねぇよ。


……オムライスでいいか。
卵もあるし。


決定したらすぐ実行
とりあえず制服のままなのでエプロンを着る

シャツに油染みとかつけたくねぇし。


ガチャガチャ。
玄関からそんな音が聞こえてきたのがちょうどオムライスにケチャップをかけていたとき。


「ただいま。」


いつもは疲れた声なのに機嫌の良さそうな声でリビングに顔を出した湊さん。
なんだ、今日は仕事楽だったのか?


「おー。」


スーツを椅子に掛けネクタイをほどいている湊さんを横目に、テーブルにオムライスとサラダを並べる。
あと腹の足しになるようにインスタントスープも。
……インスタントなのは、時間がなかったんだよ。


「俺双葉の作るオムライス好き。」

「ふーんそう。」

「・・・。」


冷てえ、と湊さんがボソッと言うけど無視
いつも通りだろ。

とりあえずスプーンを置いてから湊さんの後片付けに入る。
この人は脱いだスーツとかネクタイをそこら辺に置きっぱにする癖があるから。


「スーツはハンガーに掛けろつってんじゃーん。」


とか言いつつ片付けてしまうのは、クセで。
一年くらい経ったしな。


「……双葉って奥さんみたいだよな。」


ハンガーにスーツを掛けている俺をみて何を思ったのか、湊さんが呟いた。


「あ゛ぁ!?」

「わー、このオムライスめっちゃうまそー。」


湊さんの爆弾発言を一睨みで押さえる
その切り替えの早さは何。
つか俺が嫁ってのムカつくんだけど。
何なの娘つったり嫁つったりさあ。


「時間なかったからスープはインスタントね。」


俺もイスに座ってご飯を食べ始める


「いーよ別に。家事するだけで滅茶苦茶助かるし。いつもありがと。」

「……そう。」


こんな俺でも役に立ってるって思うとちょっと嬉しい。



「なあ、今日の……。」

「んぁ?」

「………やっぱいいわ。」


なんだそれ。


「何、飯まずいの?」

「それはない。」

「あ、そう。」


じゃあ、なんだよ。
元気に帰ってくるといい、態度が変といい。


あ。


「今日の、メール?」

「!」


冗談で言ったつもりが、カタンッと足が跳ねた音がした


「え」


図星かよ。
チラと見てみると何か気まずそうな顔してる

え…。てかなに、あのメールで喜んでるのこの人
…おっさんてわっかんねぇ…。


「それで……頑張れたわけ、仕事。」


本当は、友達が打ったと言ってやりたいところだったけどそんな顔されちゃ、なんとも言えない。

そんな父親面すんなバカ。


「…まあ、いつもの3倍は。」

「普段どんだけ頑張れてないんだよ。」


真顔で言ってきた湊さん。
大袈裟すぎるよ、全く…

てかあんなメールで3倍頑張れんの?


じゃあ今度はゆっくり休めよ、とメールすれば3倍休んでくれるのだろうか。


なんて事考える俺はやっぱりガキで。


「ねえ、知ってた?湊さんって端から見りゃあ大人っぽいんだってよ。」


俺の突然の言葉に顔を若干しかめる湊さん。


「まあ大人ですからそりゃあね」

「そうなんですか?」

「いや、てか誰が言ってたそれ。」

「友達。」

「ふうん。」


興味なさそう。
…湊さんは他人に対しての興味は薄いみたい。


「俺からして見たら間抜けな人間にしか見えないんだけど。」

「間抜けっておま…俺会社でクールですよね!とかめっちゃ言われまくってんだぞ。」

「………クール?」

「そんな目で見んなよ」


その言葉に思わず笑ってしまった。

湊さんがクールって、信じらんねぇ。
やっぱ会社でもモテモテなんだろうな。


「お前から見たらどうなの、俺って。」


湊さんが俺に聞く
いや、だからさっき間抜けな奴って言ったじゃん。


「んー。」


そう言おうと思ったけど、湊さんの顔を見たら気が変わった


「…残念な兄ちゃん?」

「…………ああ……そう。」


俺の言葉に期待してたのかわかんねぇけど、不満そうな声を漏らした
はっは。ざまあないね。


「んな事よりさっさと食べ終われよ。片付けらんないから。」

「はいはい。」


「最近双葉が冷たい」とぼやく湊さん。
それに思わずふはっと吹き出だした。


甘えてる証拠だろ。




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bkm