透明傘 | ナノ
5




『学校いつ終わんの?』


ふと携帯を開いてみたら湊さんからそんなメール
まさか、本当に迎えに来る気だったのだろうか。


『友達といるから、迎え来なくていいよ。仕事してろ。』


絵文字も可愛げもないメールを返信
子供じゃあるまいし、一人で帰れるわ。

ハァ、とため息をついたそんな時緑川がにょっ、と後ろから覗いてきた


「今日も食材調達大変だな」

「おー、悪ぃな。」


俺の持つカゴを覗きながら呟く緑川

俺は慣れた
きっと主婦並みにここのスーパーの常連


「今度加賀の料理食べてみてぇなぁ。」

「人に食わせられる程のもんじゃねぇぞ。」


それを湊さんに食べさせてるわけだが。
つか、本当に普通に人並みだし。


「昔から料理してたん?」

「あー、両親共働きだったからな。母親看護師だったし。」


父親の分は俺が作ってやってた。
お世辞だったかわからないけど、親父は中学生ん時の俺をスゴいスゴいと誉めまくっていた。まんざらじゃなかった俺は雑誌とか買って料理の勉強したし。

ほんの数年前の話なのに、何十年も前の気がする。


「そうなのか。弁当いっつも美味そうだしな…。」

「そうでもねぇぞ。」

「まぁ、今度食わせろ。」

「それは断る。」


思わず苦笑する
友達とは言えど、さすがにな。
恥ずかしいし。


えー、残念、とボヤく緑川にうっさいと言って卵を持つ


「あ、俺牧場しぼりがいい。」

「さっきガリガリくんって言ってなかったか。」


牧場しぼりの抹茶味をカゴに入れた緑川にツッコみながらも足を進めた
レジに並んで買い物を済ませると、また携帯が鳴る
携帯を見てみると、湊さん。


『なんか俺に対しての扱い酷くね?
今日は9時までに帰るから。
鍵はちゃんと閉めとけよ。』

ひどい、とはさっきの仕事しろって文章に関してなのか。


「湊さん?」

「んー。」


返信してあげな、と俺の買い物袋を持ってくる緑川
……こういう所男前だよなこいつ。


つっても、
『了解。』って文しか返さないからな…普段から。
ひどいときは返信しないし。


それを後ろで見ていた緑川が「はっ?」と驚いた声をあげた。


「なんだよ。」

「おっま…冷てー奴だな…。」


目をパチクリさせている緑川
…そんなに?
いや、いつも通りなんだけど…。


「貸せ。これ持て。」

「あ、はい…。」


緑川に携帯を取られ、袋を渡される
緑川の様子を後ろから眺めていると、『了解』の後に『仕事頑張ってね。』との文字

なっ…!


「俺こんなキャラじゃねぇんだけど!」


頑張ってねって、
彼女みたいじゃん!


「たまには湊さんにデレてやれよー。今日も送ってもらったんだろ?朝。」


ニヤニヤ笑いながら送信する緑川
うっわ、最悪だ!


「このヤロ…!後で絶対にバカにされるじゃん…!」


あああ、と買い物袋をガサガサさせながら項垂れる
ガハハと笑いながら牧場しぼりを含んでる緑川を殴ってやりたい衝動に襲われるが、俺は紳士だ。そんな事しない。


「いでっ!」


とか、思ってたけどニヤニヤしてるこいつを見ていたらムカついたから蹴ってやった。ざまあみろこの野郎。




あー……。



『送信完了しました』という携帯にうつった文字を落胆しながら見つめた。




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bkm