透明傘 | ナノ
3

あの日は、一見普通の日だった。
いや、どっちかっていうと特別な日だったのかもしれない。

珍しく家族三人揃って出掛けたのだから。


なのに、


『………なんだよ、これ……。』


赤い雨を滴らせ、動かない二人
ついさっきまで、笑っていたのに

つい、さっきまで。


なんで動かないの?


その時から、ピクリとも動かなくなった両親は
俺を置いて、二人で死んでしまった。

指先が凍ってしまうくらいの冷たい水を垂れ流す、雨の日に。


「忘れもんねぇ?」

「んー、ない。」


ネクタイをピッチリしめて家の中とは大違いの格好の湊さんが俺に確認する
ハンドルを握ってる姿がサマになっている湊さん

…社会人だし、あたりまえか。
格好いいなって思っちゃうのは、憧れってやつで。


「帰りも迎えに行こうか?」

「…仕事あるのに何言ってんの。」


冷たくあしらってドアを閉めたら「愛娘のためなら何だってしますよ」と言われた。

・・・あ?娘?
俺は女じゃねえし!なんだその子供扱い!


「いってら、双葉。」

「……ん!」


微笑んで手を振った湊さんを後にして小走りで校舎に向かった

転ぶなよ、と俺に声を掛ける湊さんは一言多い
高校生なのに転ばねぇよ。




ーーーー・・・





「はよー加賀。今日早いな!」


今日二度目の言葉
加賀は俺の名字


「今日は車だったからな。」


ずぶ濡れの友人に笑いながら言う
どうせこいつの事だからチャリで来たんだろう


「車かよ!うっわ羨まっ、俺なんてチャリだぜ!ほら見ろよこんなずぶ濡れになりながら…」

「見りゃわかるわ。はやく着替えろ」


朝からうるさい奴
そんな松本は俺の隣の席
もー、毎日うるさいから、本当疲れる。


「車かあー。俺ん家のババアなんて今日寝てたぞ。俺購買だぞ。」

「それは残念だな。」

「……嫌みにしか聞こえねぇよ……。あ、車ってことは従兄弟の……」

「湊さん」

「そうそう!格好いいよなぁー。背高くて、超絶美形で、大人っぽくて。見ておきたかったあー」


熱烈に湊さんの事を話始めた松本
こいつはキモいくらい湊さんに憧れている
本当、引くくらい。

大人っぽい?という言葉に疑問を抱きながら鞄を机の横にかける

大人っぽい……
端から見たらそうなんだろうな。
顔の整い方がモデル並みだもんな。

朝の笑ってた湊さんの顔を思い出しながら考えた。




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bkm