透明傘 | ナノ
3



やっぱり家に帰ると多少心が落ち着く
心も身体もまたいつものペースに戻りかけていた。


「双葉大分背伸びたよな」


風呂上がりの湊さんがプシュッとチューハイを開けながら言ってきた


「…え、嘘。」


突然の内容に少し驚く
というか一気にテンションアップ

背ぇ伸びたとかまじよっしゃー!!


「え、何センチくらい?」

「んー…知らね。2、3pくらい。さっき横に立ってるとき思った」


まじか
え、じゃあ17…え?172くらい?まじで?


「まじかぁーっ」


上機嫌になりながらソファにゴロンと横になる
今中学ん時のジャージ着てるけどハーパンだから気づかなかった。俺背伸びてたのかうぇーい。

湊さんは「もう伸びなくて良い。」とか言ってるけどそれは俺が断固拒否する

………てか……。
それより俺はあることが気になって仕方ない。


「あのさ、湊さん」

「んー?」

「…風呂あがって酒を飲む前に服着ろ。」


腰にタオルだけ巻いて堂々としてる湊さん
なんだ?自慢したいのかお前の筋肉


「…え、今更?」

「は?」


今更ってなに。


「俺今まで結構な回数これで出歩いてたけど。」

「………そうだっけ。」


普通にスルーしてたっつーか…
今まで全く気にもとめてなかったぞ。

…なんで俺今更になって気になったんだ


「最近腹出てきてさー。どう思うこれ。」

「もうすぐで三十路だからじゃないの。」


湊さんはそういうけど、ぶっちゃけそこまで気にならない
普通に引き締まってんじゃねーか。少なくとも俺よりは。

とか思いつつも直視出来ない俺
…だからどうしたんだって俺。


「酒止めた方がいいか?」

「やめられると思うの?」

「無理。」


だろうね。
今だってグビグビ飲んでもんね


「中年太りはしたくねーなー」

「わかったから着替えてこい」


いい加減我慢できずにお腹を擦ってる湊さんにクッションをなげた
「あっぶねー!」とボヤいてる湊さんだけど缶は無事なようだ。よし。


「デレたりツンってなったり忙しいヤツだなお前」

「デレた覚えなんてない。」


あれか。さっきの法事の時での話か。
忘れてくんねーかな


「反抗期の息子は嫌ね」

「三十路近いおっさんに言われたくない。」

「…まだ26だ」

「四捨五入してみろ」

「…………。」


そう言ったら悲しげな背中で部屋を後にした
さっきはあんなに頼もしげな広い背中もいまではただの男の背中なだけ

これはこれで安心するけどさ。

ああ、まだ同じラインに立ってるな、って思えるから。


「いつから夏休みなんだっけ」

「…あー…来月の下旬だった気がする」


スウェット姿になって戻ってきた湊さんが俺のとなりに座りながら聞いてきた。夏休みって気が早すぎねぇか


「今年はどこ行こうか。」

「……今年もどっか行くの?」

「行こうぜ。」


カラカラ笑う湊さん。あ、ちょっと酔ってる。

去年の夏も湊さんは俺を遠くに連れていってくれた。
俺はあんま気乗りしなかったけどほぼ無理矢理海に。

今思うとすごい楽しい想い出なんだけどな

あの時はどうも、気分が優れなかった


「夏休み休暇とって、あー、今年は旅館とかいいな。」


海から旅館って大分年取ったな…
てか夏に温泉って熱


「なに。疲れ大分溜まってんの?」

「お前ビジネスマンとか肩凝りひでえかんな?営業はやめとけ愛想笑いが疲れる」


…そうなのか…
湊さん家でも疲れあまり見せないから知らなかった


「揉んでやろうか。」

「え、何を。やだぁ双葉くんたらぁ」

「……………。」


湊さん酔ってんのかな。


「肩以外にあるのかむしろ聞きたい。」

「……え、まじ?」


どちらにしろめっちゃ驚いた顔をされた。
なんだよ。

俺がこんなこと言うの珍しいってか。


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bkm