透明傘 | ナノ
2



俺だって、好きで生き残った訳じゃないんだ。


『ああ、あの子…』

『両親共にですって』


近所の人の囁き声と視線
俺がどういう状況かなんて、俺が一番わかってる

だから、


『可哀想に』


そんな目を、
俺に向けないで。


「じいさん相変わらず双葉の事溺愛だったな。」


隣で湊さんが俺に向かって呟いてきた
運転中だから顔は前を見つめたままだけれど。
外が薄暗くなる時間帯の今


「……そう?」


じいさんってじいちゃんの事だよな

久しぶりに会ったじいちゃんとばあちゃん
叔母さんたちと同じで忙しそうでゆっくりは会えなかった
なんだかんだで親戚多いからな、うち。

会ったとき普通に抱き締められたりしたけど…
キツかった。いろんな意味で。

加齢臭ひどくなったよなぁ。


「双葉を寄越せって言ってきやがった。」


ぜってー無ぇけど。と湊さんが鼻で笑う


「ふうん。」

「リアクション薄いなおい。」


だって別に湊さんの家の方が良いし
と思うが口には出さない


「じいさんの家の方がいい?」

「…………何を今さら。」


そんな湊さんの質問に、思わず笑ってしまった。

湊さんが冗談で言ったのかは暗くてわからないけれど、例え真面目にいったとしても俺は笑ってたと思う。

なんか、深く考えたりしたくねぇし。


「………眠いから寝る」


これ以上そういう重い話をしたくないから、座席を倒して逃げる
実際疲れたのもあるけどね。
俺、何もしていないけど。

例え親戚と言えど、ああいう類いの目には未だになれない。
挨拶の時は湊さんが俺を背中に隠してくれていた

男らしい、広い背中。


「ん。ついたら起こす。」


これ以上あまり、依存したくないのに
優しい声でそんなこと言うから、いつも頼ってしまう

離れられなさそうで怖い
今日、さらにそう思うようになった。


「なあ、双葉」

「・・・。」

「双葉は、」


俺の家じゃない方がいい?


寝たふりをしている俺にそっと尋ねた湊さん
起きていたけれど、答えが言えなくてずっと目を閉じていた。

そんなの、決まってるじゃんか。


ーーーー・・・


「・・・。ん……」


浮上してきた意識

あれ………
俺まじで寝ちゃってたんだ……。

顔の辺りをゴシ、と擦る

けれど目を開けても真っ暗で。
………どこだここ。
モゾリと体を反転させる


「起きたか?」

「うわ。」


びっくりした。
声がした右隣を見てみると、携帯を弄っていたらしい湊さんがいて


「うわ、ってなんだよ。」


そう言ってパタンと携帯を閉じた


「………ここ、どこ。」

「マンションの駐車場。」


……駐車場?
てかここ車の中?

とは言っても車は止まってる
エンジンはついてるけど。


「お前声かけても起きねぇし、そのまま放置して熱中症おこされるのも嫌だからな。」


夏前とは言えどすっかり暑くなったこの季節

…うそ。


「え、わざわざエアコン付けっぱなしにしてくれたの?」


俺の事置いてって良かったのに。
暗闇のなか湊さんを見上げると「んー?」とはぐらかされた。


「おし、起きたなら部屋に入るぞ。」


俺の頭をポンと撫でながらエンジンを止める彼
涼しい風が止まってシン、とした空間になる


「う……ん。」


返事をして出てみた外は、むかつくくらいムシムシしてた。

あっつ。



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bkm