透明傘 | ナノ
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『お前を一人になんかさせない』


そう、湊さんに言われてから今日で一年
つまり、
俺の両親が死んでから一年が経とうとしていた。


「…………双葉くん…」

「あ、叔母さん…いろいろ準備ありがとう。ごめんね俺何もしないで…」

「いいのよ、私たちはこれくらいしかしてあげられないんだから」


名前を呼ばれて振り返ると叔母さんがいた
黒い喪服に身を包み、俺に近寄る

親父のお姉さんで、湊さんのお母さん

今日は親父と母さんの一周忌だから、法事があった。
全部叔父さん達がやってくれてるんだけれど。

見たこともあれば知らない人もいる。
葬式の時は記憶にないから…。

同情ばかりを俺に寄越してきたたくさんの人
どうせ、他人事なのに。

でも、この人たちだけは、違った。


「湊はどう?ちゃんと大人になってるかしら」


苦笑しながら湊さんの話を持ち出す叔母さん
笑うと少しだけ湊さんに似てる。柔らかい笑顔


「湊さんは昔から大人ですよ」


あ、でも時々ガキっぽいけど
少なくとも俺よりずっと大人


「…そう?きっと双葉くんに面倒見て貰ってるんでしょうね」

「そんな事ないですよ!むしろ俺、世話になってばっかで……」


せめてバイトしようと思ったのに、湊さんが許してくれない
通帳も湊さんに持たせてるけれど、きっと使ってないだろう


「俺、何も出来てない気がします…」


いつもいつも可愛いげの無いことばかり言ってるし
邪魔になってないだろうか
むしろ俺、独り暮らしした方が……


「もう、双葉くんっ!」

「い゛っ!!!!?」

「なんか暗い雰囲気だなぁって思って聞き耳たててれば何辛気くさいこと言ってるの?」


突然の肩への衝撃
と共に綺麗な女性の声

……この声は…


「ちょっと美香、今のは強すぎ」


叔母さんの呆れた声で確信を得た。やっぱ湊さんの妹である美香さんだった。
じんじんする肩

確かに痛い。超痛い。

振り返ってみると、学校の女子とは比べ物にならないくらいの美人な容姿の女性が。
…相変わらず美人だな…


「あのバカ自体が双葉くんいないと暮らせない状態になってるのに、双葉くんはそれをわからなすぎ」


やれやれとため息をつく美香さん


「私が双葉くん引き取るっていったらあいつ断固拒否だよ?どんだけ溺愛してるのか…」


まあそりゃあ美香さん女性だし一緒に暮らすのは無理なんじゃ…

と思うけど美香さん相手にそんな事言えない
てかいつの間にそんな話してたのか


「でも美香の言うとおりよ、双葉くん。あなたは湊にとって大事な存在なんだから、壁を作ったりしないでね?」


もし嫌になったら私たちのところに来なさい、と優しく笑う叔母さん


「……うん…ありがとう…」


その言葉に小さく頷く
なんとも言えない気持ちが込み上げて胸を締め上げた

こんな優しい親戚がいてくれて、俺、すごい幸せ奴なんだな…
今さら身に染みた。



ーーーー・・・



「…双葉!」

「湊さん。」


もう食事会が終わりかけて部屋の隅で大人しく立っていたら湊さんがやってきた。
いつも見慣れるスーツ姿。でも今日はいつもの数倍大人っぽく見えて。

……やっぱ俺なんてただのガキなんだろうなあ…


「大丈夫か?…そろそろ終わりだし車に…」


心配そうに俺の顔を覗く湊さん。いつもいつも俺を心配してくれる。
湊さんは手伝いで忙しくて、今日あまり一緒にいられなかった。

数時間の間だけなのに、こんなに寂しく感じた俺って何。


「いや、大丈夫。…湊さんと一緒にいる。」


そう小さい声で言ったら湊さんは目を丸くした。

言ってから俺もハッとする。
俺、無意識に何言ってるんだろう…!


「………いや、あの…!」


だって、なんか、モヤモヤするし
俺一人で車に乗ってるのなんかやだし

だいたい、俺の両親の法事なのに湊さんに任せっぱなしで…!
いろんな言い訳が頭の中に出てくるが口には出てこない
「っ」、という短い息だけが溢れて言葉は何も出てこなかった

………なんか、歯痒い………。
思わず俯いてしまった


「そか。んじゃ退屈かもしれないけど、もう少し一緒いて。」


そんな俺を見て理解したのか優しく微笑む湊さん
ちょっと嬉しそうに見えるとか、俺の気のせい…だよな。

頭を一撫でされ、ついでに頬にまで指が滑る
以前は嫌だったけれども、最近はどうも安心するようになったこの行為


「……ん。」


それほど、湊さんは俺にとって欠かせない存在になっていた。


最近の俺は、
少し依存しすぎかも。


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bkm