透明傘 | ナノ
16


「はぁーっ、大量大量」


満足でテンションが上がっちゃうくらいになったのは午後6時の事
さすがに湊さんに弱者扱いをされるのは嫌だから、自分の分は持つようにした


「満足?」

「もう後一年は何も要らない。」

「ふはっ、そんなにかよ。」


隣で目を細めて笑う湊さん
なんかちょっと嬉しそう

俺も嬉しくなる


「そろそろ家戻るか。明日学校だし。」

「うぁ。」


忘れてたー。最悪。


「課題全然やってねぇ…」

「頑張れよ。」


俺の頭をワシャワシャ撫でてくる大きな手
他人事のような言葉にちょっとム、としたけど手の暖かさに和んだ


「うん。」


やるしかねぇしな。
ため息をつきながら出口へと向かう

やっぱ最後の最後まで視線がハンパなかった。
湊さん効果だね。


「・・・あ。」


出口に近づくにつれ、遅くなる足取り
俺らに向かってくる人たちは軽く濡れていて


………雨、降ってるのか。


ちょっと体が重くなった。


「止むまで待つか?」


そんな俺の様子の変化に気づいた湊さんが優しく問いかける
撫で方も俺をあやすような、優しい撫で方。


「ううん。あと帰るだけだし。」


少し背筋がゾワッてしたけれど、大丈夫だろう
俺だって男だし。


「あ、じゃあちょっと待ってろ」

「…?うん」


そう言って湊さんが向かったのは近くにあった300円ショップ

……雨が降るといちいち気を使わせてしまう
そして、自分もそれに甘えて克服できないまま

あの苦い一日が消えてくれない。


「双葉、」

「ん。」


お待たせと笑う湊さんに首を振る
全然待ってないし


「とりあえずこれで駐車場までいこう」


と言われて出された紺の傘。


「別に濡れるくらいなんてことねぇよ。」

「荷物が濡れるのは嫌だろ?」


……まぁ。
そうだな。

湊さんの言葉に素直に頷く


「よし、じゃあ帰んぞ。」


そんな俺に湊さんは満足げに笑った







「うっわ、すげぇ雨だな。」


外に出た瞬間激しい雨
隣で湊さんがボヤく

うるさい雨の音
嫌な気分。


「双葉、」

「大丈夫。行こう。」

「・・・。」


俺の言葉に少し戸惑った様子だったけれど、バサッと紺の傘を開いた湊さん
意外と大きい傘


「走んぞ。」

「え、まじ?」

「まじまじ。」


ズボン絶対濡れんじゃん。

そんな俺の不満が聞こえたのか聞こえてないのか、湊さんはニヤッと笑って俺の手を握りながら足を進ませた

何故に手を繋ぐ?

湊さんよりも俺を優先している傘を見上げながら不思議に思う。

まぁ、たぶん、

俺の足がそこまで速くないからなんだろうけど。




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bkm