透明傘 | ナノ
17



「超濡れた」

「悪かったな」

「バカ」

「ごめんって。」


車に乗り込んだときすでにビショビショになってた俺たち
走ったから傘の意味、ないじゃん。

拗ねる俺に苦笑しながら頭をガシガシしてくる湊さん
別に湊さんが悪いだなんてなんてこれっぽっちも思わない

ほんっと…。
雨なんて嫌いだ


「大丈夫か?」


湊さんが上着を俺にかけながら突然心配そうな顔をする
…そんな途端に真面目にならなくていいのに…つか上着かけられるって、俺めちゃめちゃ女扱い。


「気にすんなって、湊さんの方が超濡れてんじゃん」


髪から滴が落ちてる湊さん
どんだけ俺を庇ってるんだよ、もう


「水も滴るいい男になってる?」

「黙れバカ」


…心配して損した
俺の言葉に笑う湊さんは、実際いい男だからむかつく。この野郎。


「冗談だっつーの。その袋んなかにタオル入ってっからそれでとりあえず拭け」

「ん。」


どれだろう。
適当でいいか。

出したのは少し大きめのバスタオル
顔と頭と出ている肌を拭く


「…一気に降り始めたな。」

「うん。」


強い雨が窓を思いきり叩く
やっぱうるさい


「…お、サンキュ。」


あらかた拭き終わったから、湊さんの頭を拭いてやった。なんでそんな意外そうな顔してるんだよムカつくな

時間が経つにつれて暖房が体を暖めていく。その暖かさにホッと息が漏れた


「どうした?」

「んー…」


突然俺が湊さんの手を掴んだからか、びっくりしたような、心配してるような声を出す湊さん。

ただ、無性に、いつも撫でてくれる手を触りたくなった。大きくて、温かい手。
どうしてだかわからないけれど。


「双葉」


俺の名前が優しく呼ばれる
返事の代わりにギュッて手を握ってみると、空いてる方の手で頭を撫でられた

重ねられてる方の手では、右手の甲を親指の腹で撫でられている

両手を一緒に使うなんて、器用な人だな。


「雨だと可愛げがあっていーな。」


フッと静かに笑う湊さん。
いつもはイラッてくる言葉だけれど反論する力が出ない。めっちゃ疲れてんのかな、俺。

雨のせいなのか、疲れなのかわからないけれど、とんでもなく目の奥がどんよりしてくる。

静かな車の中に雨の音だけが響く
日は落ちていて、車の中は薄暗い

さっきまでのあの楽しさがまるで嘘のよう

なんだか気だるい。

不安要素しかない今に、湊さんが優しい声で呟いた


「…………俺はどこにもいかねーよ。」


………うん。



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bkm