透明傘 | ナノ
14

続いて二階に行く
二階はファッション系の店が多く女性が大人数

うわ…男二人ってめっちゃ浮かね?

心配になって湊さんを見上げるけどなんか楽しそう
家の中だったら絶対鼻唄歌ってるよ。


…てかやっぱ、なんか。
視線がスゴいよな…。


ほとんどの視線が湊さんへと向かってる
たぶん次いで俺を見てることだろう

絶対比べられてるって……ああぁ…!


「この店見ようぜー。」


そう言って入った店は(もちろん)メンズアパレルショップ
なんか高そうな雰囲気
俺こういう店入ったことねぇよ…!

ダチが松本と緑川だからな。
緑川はお洒落だけど松本だからな。


「いらっしゃいませー。」


雰囲気の良さそうなお兄さんが俺らに挨拶する
やっぱこういう所で働いてる人ってイケメンだよなぁ…。

ジトと見てしまうのは、俺が傷心中だから。


「お前普段何色系多い?」

「え。」


店の中を物色しながら、首を傾けた湊さん
何色系…!?


「いや、紺とか、白とか…?」

「そ。」


あんま派手なのは、ね。
着ねぇし。だいたい似合わねーよ。


「ゆるっとしてるやつとかは嫌い?」

「いやそんなことねーけど…。」


今は黒チノだけど。
そう言われて拾われたルーズめなパンツ。芸能人とか、イケてる人が履いてるテーパードスラックスだ。

ぶっちゃけ格好いい、けど俺に似合うかわかんねぇ。
冒険したことねぇしな…。

湊さんを見てみるけどやっぱ楽しそう。
俺の事甘やかすのが嬉しいのか。

いやいやそんな。


「ご兄弟ですかー?」

そんな時、さっきのお兄さんが近寄ってきた
ニコニコして人の良さそうな人


「いえ、従兄弟同士なんですよ。」

「あっ、そうなんすか。通りでお二人のタイプが違うわけだ。」


チラリと俺の方に視線が来る

グッサァー

今俺ナイフで心臓刺さりましたよ。
比べられましたよ。

そうだよ!俺は湊さんとはタイプが全然ちげえよ!
湊さんみたいに格好よくて男前で背高くて…


「随分線が細い方ですもんね、綺麗目さんですし。」

「え。」


悲観して明後日の方見ていたら、こちらに視線を配られながらそんな事言われた。

え、俺?
綺麗なんて初めて言われたぞおい。
ポカンと空いた口を慌てて閉じる


「君みたいなのは、ユニセックスラインが似合うんじゃないかな?」


俺の反応を見て笑いながら言ってきたお兄さん
ゆ、ゆにせっくすらいん?

業界用語かなんかだろうか。


「特に男女の区別がなさそうな服の事だよ。」

「あ、そう…。」


俺の困惑してる様子を見て付け足す湊さん
確かになぁ、と納得してる様子でまた服を散策し始めている

いや。待てよ。
俺限りなく女みたいな類ってこと?

それはそれでいやだな。


「高校生ですか?」

「あっ、はい。」


お兄さんも俺の服選びを手伝ってくれている


「そっか。普段はどんな格好してるの?」

「いやあ、彼女とかいないんでお洒落ってあんましないんですよね・・・」


あ、やべ。
自虐った。


「えー彼女いないのか。意外ですね。」

「いやいやいや。」


まじで驚いてるように見えるのはお兄さんの演技が上手なんだろう
なんか照れるな。

そんな時、ツカツカと湊さんが何着か服を持ってきた

うぉ、そんな候補があるのか。


「下は何に合わせますか?」

「このパンツ気に入ったから、これに合わせたいんですけど。あと似たようなジャンルで」

「あーそれですと…。」


あ、俺置いてけぼり


「わっ」

「あ、ごめんね。」


湊さんが持ってきた服とにらめっこしてる時お兄さんに引き寄せられた肩


「うーん、どうでしょう。」


どうやら、服を鏡と合わせるためだったみたいで。
後ろからかぶさるようにお兄さんが、俺に服を合わせている

な、なんか近いな…!
すぐ横にお兄さんの顔
店員と言えど照れちゃう俺。


「んー、じゃこれとこれ着てみろ双葉。」

「あ、うん。」


目線の行き先に困っていたら、今度は湊さんに手を引かれた
大きな手が俺の手首を握る

なんだなんだ。あっち引っ張られたりこっち引っ張られたり忙しいな。

試着室はこちらです。とお兄さんに案内され試着室にイン

てか今さらだけど今日俺のためにここに連れてきてくれたのかな。
このノリだと服まで買ってくれそうだし…。

なんか悪いな。

とか思いつつ着替える
まず上を脱いでみたけど、自分の貧相な体格にうんざり
線が細いってか筋肉がねーだけだろこれ…

小さくため息を吐きながら選ばれた服を試着

お、おぉ…。

今時な感じのストリート系。でも女の人もこういう格好してそうな感じのやつ。

なんか…着たことねえわ。こういう服。
スラックスとかじゃなくジーンズまであるし。


「・・・。」


てかこの服とか結構すんじゃねぇのこれ?
ペラ、と値札をめくって唖然

お、おまっ、
こんなすんのか…!!!!
てか他のもうわわわ


「っちょ、湊さん!この服たちかなり値段が…!!」


とりあえず全部着替えてからカーテンを開ける
なんか学生が服ごときに掛ける値じゃねえっていうか…!!


「おー、似合ってんじゃん。」


俺の訴えは無視か!


「わあ、素敵ですね」


素敵だと!?
俺には無縁の言葉が来て戸惑う


「服大きすぎじゃないすかね?」

「いや、それはそれでいいと思いますよ」


二人でまた会話
誰がチビや。いや、チビじゃねーし。
悲しくなってきたからとりあえず鏡を見る

今時っぽい服着てる俺。
おお…。なんか、かっこよくみえる・・・。
色もデザインもそこまで派手じゃなくて俺的に気に入ってしまった。


でも、値段がなぁ…。


「気に入った?」


湊さんがにょっと鏡にうつる
俺とは違って、男らしくてカッコいい体格の湊さん


「………やめろ、俺の隣に立つな。」

「何ゴルゴ13みたいな事いってんだ。」

「湊さん並ぶと比べられんじゃん…。」


俺ってかなり貧相だよな…。
筋肉ねぇし…。このだぼってしてる服で隠せてるけど。


「この胸板はどうやって作られたんだ…。」

「公開セクハラはやめろ。嬉しくねぇ。」

「あでっ」


湊さんの胸板をサスサス撫でたらおでこペチンてやられた
…公開じゃなかったらいいのか?


「じゃ、これ会計でお願いします。」

「えっ!!」

「なんだ不満か?」

「いや、値段が…。」


かなり、するんじゃ…


「いーよ。ご褒美。」


そう言って、俺の頭をポンと撫でる湊さん
な、何の?


「俺別に何も…。」

「うっせえゴチャゴチャ言うな。気に入らねぇの?」

「それは…。」


すごい、気に入ったけど。

小さく呟けば、「じゃ、会計で。」とお兄さんに言ってしまう


なんでそんな優しいんだこの人は。


「これ着たままにするんで」

「あ、じゃあこちらの服包んでおきますね。」


慣れない肩の涼しさに手を置きながら湊さんの隣に立つ
これで少し釣り合えばいいんだけど…。

ってまた俺は彼女みたいなことを。


「ごめんね、タグ切ってもいいかな。」

「あ、はい。」


ハサミを持ったお兄さんが俺に近づく
そういや、さっきから服の中に入って背中に当たってたからくすぐったかった。


「俺がやりますよ。」


けれども湊さんに遮られて。

ん?


「あ、じゃあお願いします。」


いや、お店の人にやらせればいいじゃん、と思わず言ってやりたくなったけど我慢。


「んだよ、タグ中に入っちまってんじゃねーか。」

「うっせ。」


湊さんの生暖かい手が俺の背中を滑って、背が弓なりにしなる
ひっ、くすぐった…!

ゾワゾワってした、あー恥ずかしい。

無言のあとにハッ、と鼻で笑われる声が聞こえた
……むかつくな。


パチン、と糸が切られる音が後ろから聞こえ、そのあとパンツの方からも鳴ったから終わりだろう。

湊さんが「ありがとうございます。」とお兄さんにハサミをわたした。


「ほら行くぞ。」

「あ、うん!」

「またのご来店お待ちしております。」


深々と頭を下げるお兄さん
俺もペコリと頭を下げ、湊さんを追いかける


「次昼飯でも食うか。」

「やった。」


昼飯と聞いて俺のテンションが辛うじて上がる。
そんな俺の様子を見て笑う湊さん


「フードコート…は地下だな。」

「ん。」


エスカレーターで地下に降り、どんな店があるか散策

昼時だからか人が多い。


「ラーメンとか?」

「あ、いいね。」


俺ラーメン好き、と笑いながら言うと即決定されてラーメン店へ。
混んでいる様子だったけど、ギリギリ二人分の席は空いていたためそこに座る


「あ。」


店にはいってから気づいた。


「なんだ?」


俺の溢した言葉を拾い上げる湊さん
敏感だな、この人。と思いつつ自らの服を見る


「…ラーメンだと、服汚しちゃいそう。」


汁跳ねるだろうし…。

ギュッとさっき買ってもらった服を握ったら、湊さんがふはっと笑った

なっ…!


「なんだよ…!」


クックッと肩を震わせて笑ってる様子の彼
バカにしてんのか?
してんのか?

湊さんを眉間にシワを寄せながら見ていたら「ごめんごめん。」と謝ってきた。


「お前、可愛いな。」


そしてこの一言。

は?


「やっぱバカにしてんだろ。」

「してねぇって。」


怪訝な顔してる俺の頭を撫でる湊さん
うわ、子供扱い


てか可愛いって…。
今日はなんだか今まで言われたことない事ばかり言われる。


「いてっ」


相変わらず笑ってる湊さんの足を蹴ってからメニューを見る

あ、塩ラーメンがいいな。

即決定。

この暴力やろう、と湊さんは愚痴っていたが、無視した。



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bkm