透明傘 | ナノ
11



「双葉も髪乾かしてねぇじゃん。」

「俺はいーの。」


少し濡れた前髪を後ろに流してる状態で戻ってきた湊さん
……邪魔だから上げただけなんだろうけど、男前さがアップしてる。
腹立つななんか。


風邪引くぞー、っていいながら席に座った湊さんをチラリと見てみる


………やっぱ美形なんだよなぁ。俺もすこーし美形の血が混ざってるはずなんだけど。おばさんか?おばさん美人だもんな。


「何、そんなジロジロ見て。」

盗み見たはずなんだけどバレてたみたい。


「湊さんって誰似って言われてる?」

炒飯を口に含みながら聞いてみる。
眉の形も鼻も唇も目も、すべてのパーツが揃ってる湊さん
まじモデルになれるって。


「どした急に。」

「湊さん美形じゃん。誰の遺伝子かなって。」

「・・・。」


正直に答えすぎたのか、湊さんの手の動きが止まった
…男に言われてもキモいだけか?

チラ、と俺を見た湊さん
なんだよ。


「……親父じゃね?」

「ふーん。」


叔父さんか。
まあ、おじさん背高いしイケメンだもんな。
眉もキリッてしてるし。

叔父さんとは血繋がってねぇな
叔母さんは俺の親父のお姉さんなんだけど…。


納得。

そういや湊さんの妹の……美佳さんも綺麗だし。
美男美女家族なんだよなあ。


「お前は叔母さん似だよな。」

「え?そう?」


母親似かあ…。
んー。俺はどっちつかずだからな。
足して二で割った感じ。


「目とか、肌白いところとか。」

「あー。」


目は母親そっくりだな。
よく言われる。

あと、ひょろっこい身体とかね。
筋肉ついて欲しいんだけど、つきづらい体質なのか。

あー、考えたら落ち込んできた
考えんのやめよ。


ごちそうさま、と呟いて席を立つ


「あ、今日俺洗っとくから置いといて。」

「ありがと。」


仕事の無い土日は湊さんが皿を洗ってくれる
時々土曜日にも仕事が入ったりするから、そん時は俺が洗うんだけど


あー、つっても暇だな。
ドサッとソファに座ってみても何もすることがない


リモコンを拾ってテレビをつけた時に、後ろから食器を洗い始める音が聞こえてきた

この時間って特になぁ…。
面白いのねーしな…。

ボケーとテレビを見る


数分経ったら、湊さんがやって来た


「この時間おもしれーのないだろ。」

「うん。ない。」


俺の足元に腰かける湊さん
足を少し折って座りやすくしてやる。


「髪の毛乾かさなくていいの?」

「んー、めんどくせー。」

「頭こっち寄越せ。」

「なんで?」

「乾かしてやるから。」


湊さんがちょいちょいと手招きをする
えー…。


「別にいいよ。自然乾燥で。」

「風邪引くと困んだろ。」

「えーひかねえよ」


結局負けたのは俺で、湊さんの膝に頭を乗せる

膝枕みたいだ。
とは男のプライドがかかっているので口には出さない


「膝枕みてーだな。」

「言うなよ。」

俺のプライド、崩壊。

ガショガショと俺の頭をタオルで拭く湊さんを睨む
そんな俺を見てニヤニヤ笑ってる湊さん。くそう悔しい。


「明日は買い物でも行くか。」

「どしたの急に。」


まあ、明日は何もないけどさ…。

湊さんを見上げてみると何だか楽しそう。
目元が優しく細まってる。まるで父親だ。


「そろそろ季節変わるからな、買っといた方がいいだろ。」

「でも悪いよそんな…。」

「俺も久々に服見てーし。」


だめ?


って。
そんな顔されちゃ、断れない。
う゛、と口をモゴモゴ

「わかっ、た。」


頭をタオルでガシガシやられつつも頷く


「うし。」


そんでもってめっちゃ嬉しそうな顔された。
……なんか、照れるな。

明日がちょっと楽しみになったなんて、言えるほど俺は素直じゃないし。


結局髪があらかた乾くまでやられたら、ドライヤーをかけられた
ソファのしたに下ろされ、上から撫で付けられる

そこまでしなくていーのに…


「俺今日どこにもいかねーから別にいいよ!」


ブォオオオって煩いドライヤーに負けぬよう声を張る
ボサボサのままでいいっての

というか、湊さんの指が髪を抜ける感じがいつもより、なんか…違う気がする、てか指が優しくて、恥ずかしい。

……そんな俺に対して、


「俺がやりてーんだよ。」


叫ぶわけでも、声を張るわけでもなく、
俺の耳元で呟いてきた湊さん


うわ。


反則技にゾクリ、と背筋が延びる

だって、まさかこんな至近距離で呟かれるとは思わなかった…!
ダイレクトに耳に…あああ

頭がフリーズして、されるがままになる。
ちくしょー……


そんなことより明日の話でもして誤魔化そう。


「明日、家で、や、休まなくていいの?」


照れ隠しがてら湊さんに質問しとく。じゃないと俺がもたない。
つか日曜日はいつもゴロゴロしてたのに。ニートやってたのに。


「んー。」と言って、ドライヤーのスイッチを消した湊さん



「誰かさんのご命令通り昨日ゆっくり休んだし?」

「っ、う、」


それって、昨日の電話の事だよね…!?


優しい湊さんの声に言葉が詰まる俺


………絶対、湊さんニヤニヤしてるよ!
後ろを向くのも恥ずかしくて硬直


「おかげで疲れがとれました。」


そしてそんな事を言って俺の頭を撫でてきた。

っ…


優しい力で整えられてく髪
俺は、湊さんの言葉に返事を出来ずに口をパクパクしてる。


「ど、いたしまして…。」

「ん。」


恥ずかしくて俯いた俺



きっと、今、めちゃめちゃ真っ赤だ。


なんか、悔しい。




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bkm