透明傘 | ナノ
9




松本と緑川は直接緑川の家にいくらしい。

俺は一時帰宅して湊さんの夕飯準備と洗濯掃除。


たぶん朝も帰ってこれないから、明日の朝御飯も食べれるようにしておこうと思って作ったのは肉団子

あとポテサラを置いてラップをかける
時間はすでに七時半


やべっ…!


連絡は携帯で入れようと思い、着替えてダッシュで緑川の家へ。


チャリを本気で漕いだら20分もかからなかった。
俺すげぇ。


「おっせえよー。」


松本の第一声がそれ。
二人でスマブラをやっていたらしい。

スマブラ…。
なんか懐かしい。
ウズウズする。


「うっせー。色々大変だったんだよ。」


ドサリと緑川のベッドに腰かける


「俺にもコントローラ一個。」

「ほいほい。」


あ、その前に湊さんに連絡入れなきゃ。


「ちょ、やっぱまだ俺抜きでやってていいよ。」


コントローラを置いて携帯を手に取る
松本のどっちやねんというツッコミはスルー。

そろそろ仕事終わってるだろうし…。


とか思いつつ


『今日、友達の家で遊ぶから。ご飯ちゃんと食えよ。』

とメール。


「おし、俺も入るから中断しろ中断」

「えー。」

ブーイングする松本を無視して俺もプレイヤーとして参加。
俺的にゼルダが結構好きだけど、今日はランダムで決めることにしてみた。


「カービィ」


いやまあ嫌いじゃねぇよカービィ。
でも水色のカービィはちょっといただけないな。どういうことだ。

松本はドンキー
緑川はリンク


「ぅあっ死ぬ、やめろ!やめろ!」

「うるせえよ松本〜。」


コンピューター相手に何手こずってんだ。
ゲームをしてふと思うんだけど、もしかしたら泊まりってかなり久しぶりなのかも。

なんだかんだ言って毎日湊さんと居たなぁ。
どんなに忙しくても湊さん帰ってきてくれてたし。


「あれ?もしかして今日湊さん一人?」

「あー、まあな。」

「うっわ、緑川ひどいっ鬼畜!俺の残機一機なのに!」


松本を苛めながら俺に質問する緑川

……こいつ、器用だよな。ホント。
顔ニヤついてる時点でドS


「そろそろ一年経つの?」

「おぉ。来週くらいで一年じゃね?」


来週は両親の命日だから墓参りにいく予定。
湊さんも行くって一点張り。別にいいのに。


「湊さんも親バカっていうか過保護っつうか…。」

「だよなぁ。俺も思う。この前なんて髪の毛染めるの大反対されたぞ。」

「え、髪染めるの?」

「染めたら丸刈りにするって脅された。」

「それは嫌だな。」

「なになに湊さんの話か!?」


おせぇよ。


「9歳差だろ?気まずくねーの?」

「あー、別に。前もちらほら会ってたりしたし。」

「前からあんなイケメンなのか?」

「湊さんが高校生ん時……は、うん。イケメンだった相変わらず。」


そん時俺八歳か?
よく覚えてるな俺。

手とか繋いでくれてたし、おんぶとかも。海とかも一緒にいった。
今思うと吐き気しかない。


「湊さんってお前の事大好きだよな。」

「そうかぁ?」


あの人はきっと俺を弟だと見てるんだろう。
弟欲しかったって、前言ってたし。


「俺もあんな兄ちゃん欲しいわー。」

「松本兄貴いんじゃん。」

「あれは王様だ。全然優しくねぇ。」

「奴隷の松本と相性ピッタリじゃん。」

「緑川俺にひどくね?」


松本の兄貴か。見たこと無い。
どんな人なんだろ。



するとふと、携帯の着信音が鳴った


あ。


「俺のだわ。」

「湊さんか!?」

「ちょっと廊下に出るわ。」

「おーおー好きにせい。」


緑川が適当に手を振ってきた
俺がいなくなったベッドを一人で占領しながら。

こいつ本当にマイペースだな。



「もしもし?」

『俺だけど。』


名前みりゃ、わかるよ。


「うん。なに?」

『・・・。』


無言の湊さん
………どうしたんだ。


『泊まんの?』

「うん。」

『……そ。』

なんか、素っ気ない。


怒ってんのかな。
いや、怒ってるのとは何か違う気がする。

きっと金曜日だから疲れているんだろう。
少し心配になっちゃうじゃないか


「ご飯、ちゃんと食べろよ。」

『さっきメールで見た。』

「スーツとか、ネクタイとかもかけたか?」

『本当お前は俺の奥さんかよ』

「ちげえよ」


最後の言葉に少し笑ってる声が聞こえた
とりあえずひと安心。


「明日、昼前には帰るから。」

『無理しなくていーぞ。俺明日会社休みだし。』

…あ、そうか。土曜だしな。

そういえば、毎週二人でDVD見て徹夜してたな。
ちょっと残念。


「だからってずっと寝てんじゃねーぞ。」

『はいはい』


湊さんはいっつも休みの日は遅くまで寝てる
たまに1時になっても起きないから死んでんじゃないかって思うほど。


「んじゃ、こっちは心配しなくていいから。おやすみ。」


そろそろ区切りをつけようと話を切り上げる
どっちかっていうと湊さんの方が心配だ。


『ん、おやすみ。』


眠いのか疲れてるのかわからないけど、やっぱり重たい。
仕事疲れがひどいのに、今日俺は何もできないし。


………あ。


《たまには湊さんにデレてやれよ》


緑川の言葉を思い出す
デ、デレる…って……。
デレる………。


「み、湊さん」

『んー?』


切られる前に慌てて声をかけてみた



「あー……。」


掛けてみたけど、なに言えばいいの。



『どした?』


優しい湊さんの声
なんでそんな優しい声なんだ、腹立つな。


「あ、えと…えーと…。」

『んだよ。』


あれ。なんで緊張してんだろう、俺。
あんまりこういうの得意じゃないからかな。


あー……と…


「……が、頑張りすぎるなよ。ちゃんと休め。」


・・・。

すごい命令形になっちゃったけど、

言った。


こんな事はじめて言ったかもしれない



『・・・。』


案の定無言の湊さん。


くそぅ!!
いっそのこと笑えばいいのに…!


カカカ、と首が熱くなっていくのがわかる


「ちが、えーと、たまには、ホラ、ね。」


必死に言い訳しようとする俺。でも言葉が出てこない。

てか、
なんか、もう限界。


『………双、』ブチッ!


湊さんが何か言う前に携帯を切った俺



慣れないもんはやってみるもんじゃねーな。



赤くなった首を擦りながら、部屋に戻った




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bkm